「さささささ、笹川君!?」
「極限にすまなかった!!」
「へ?何が?」
予想外の言葉に首を傾げる。笹川君が謝る意味が分からない。
「俺の事情で巻き込んだ!」
「え、いや!そんな!勝手に巻き込まれたのはこっちだし!」
「極限に怖い思いをさせた!」
「いやいや、笹川君もツナもいたし、大山はアホだし全然怖くなかったです!」
「助けるのが遅くなった!」
「一番に助けに来てくれたのは笹川君だし!」
一通り怒鳴り合うと――とても怒鳴り合うような内容ではないんだけど――笹川君は納得のいかないような表情だったけれど黙った。
「本当にすまん」
絞り出すような小さな声。本当に申し訳なさそうな笹川君の表情。
だから、何で、笹川君が、謝るの。
居た堪れない気持ちになり、私は頭を下げる。
「私の方こそごめんなさい」
「何故お前が謝る!」
「な、何故って……寧ろ私には、笹川君が謝る意味が分からないよ」
「寧ろ俺には、お前が謝る理由が極限に分からん!さっぱり分からん!どういう事だ!」
「そんなこと言われても」
返答に困りおろおろとすると、笹川君ははっとして首をぶんぶん振った。
「違う……怒鳴るつもりはなかったのだ」
そして、笹川君は眉間を抑え、落ち着く為か深く息を吐き出す。
「立てるか?」
笹川君に問われ、立とうとしてみるも、まだ足は動かない。
「……ごめん、無理」
「そうか」
くるりと笹川君はしゃがんだまま後ろを向く。その意図が分かった私は、そのまま彼の肩に掴まった。笹川君が私を支えて立ちあがる。
「ごめんなさい」
「謝るな」
私をおぶさって、笹川君が歩き出した。
こうされるのは始業式以来だ。
今はもう、桜の季節は過ぎたけど。笹川君の背中はあの時と変わらずしっかりしていて、申し訳ないやら、嬉しいやら、情けないやらで、酷く切なくなった。
「笹川君」
「なんだ」
「ありがとう」
「ああ」
何だか泣きそうな気持になってしまい、申し訳ないと思いつつも笹川君の肩に顔をうずめる。一瞬弾けるように体を震わせたものの、笹川君は何も言わなかった。
「ソラさ〜ん!!!」
「ソラ姉!お兄さん!良かった、無事だったんだ!」
前方から声がする。ツナ達が来たらしい。意図的なものじゃないとは分かっているけれど、空気を読んで遅れて登場してくれた彼らに、ありがたいと思ってしまう。
「あっ!テメェ!ソラさんに何してんだ!?」
「腰が抜けたらしいからおぶっているのだ、何が悪い!?」
「えっ、ソラ姉、腰抜けたって……!?大丈夫!?大山のお兄さんに何か酷い事されたの?」
「大丈夫、何もされてないよ」
顔を上げてツナに笑いかけると、ツナが目を見開いた。
「じゃあ何で姉さん、泣いてるんだよ!?」
げっ、やだ。気づかぬうちに私は泣いていたらしい。焦って目を押さえると、涙で指が濡れた。
「な、なにぃ!?沢田!泣いているのか!?何故だ!!」
「ぎゃ!笹川君、振り向かないで!顔が近い!顔が近い!」
「うわ!!すまん!極限にすまん!!」
「こんの芝生頭!ソラさんに何してやがんだ!っつーか何で泣かせてんだ、テメェ!」
「ちがうちがうちがう!笹川君は何もしてないから!なんとなく、えっと、えーっと、欠伸、そう欠伸しただけ!」
右手で涙をぬぐいつつ、今にも笹川君に噛みつきそうな獄寺君に仲裁に入る。そうなんすかとか獄寺君は渋々と言った様子で引いたものの、ツナは疑いのまなざしでこちらを見ていた。頼む弟よ、今は何も言わないで頂戴。
まあ、そこはツナだ。空気の読める我が弟は、特に何も言わず、私達の隣を黙って歩いた。
「ところで」
と、笹川君。
「沢田は沢田ツナとも兄弟だったのだな」
あ。そうだ。忘れてた。
ごめんなさい
とりあえず、その後笹川君の誤解は解けました。
「当然だ。俺が取り繕ってやったのに結果が出せなかったなんつったら、許さねーぞ」
「取り繕ったって何。…………ちょ、まさか今日の一件ってリボーン君の差し金!?」
「全部じゃねえぞ」
「どこからどこまで!?」
(2011.05.18)