「よし!」

    スタンドミラーの前で最終チェック。制服を着る自分に問題がない事を確認して、私は気合いを入れるため両頬を軽く叩いた。

    「ちゃおっす。気合い入ってるじゃねえか」

    いつの間にやら私の部屋にやってきたリボーン君がにやりと笑う。いつもの事なのでツッコミは入れずに私は苦笑して返した。

    「笹川君に言わなきゃいけない事があって」
    「いよいよ告白か」
    「違うよ!それはまだ無理!」
    「お前は本当に笹川了平の事となるとダメダメだな」

    やれやれとわざとらしく溜め息をつくリボーン君に言葉が出ない。どうせ私はダメダメですよ。私が一人やさぐれていると、リボーン君がふっと視線を落とした。帽子が影となり表情が見えなくなる。

    「しょーがねーな。ついでだ。面倒見てやる」
    「え、何が?」
    「そんなことより良いのか、ソラ。遅刻すっぞ」
    「わ、やだ!こんな時間!いってきます!」

    リボーン君に急かされ慌てて部屋を飛び出した。まずいまずい。朝からのんびり話をしてる程時間に余裕はないんだから。

    「いってきまーす!」
    「いってらっしゃい、ソラちゃん。気をつけてねー!」
    「はーい」

    母さんに見送られながら私は家を飛び出した。
    それにしても面倒見てやるとかリボーン君が言ってたけど、どういう意味だろう?
    頭を捻るも、私だけでは答えなど出るはずもなく。考えるのをすぐやめて通学路を進んだ。

    ***

    通学路を半分くらい進んだあたりだろうか。背後で人がどよめき始める。何かと気になり振り返って見て、私は自分の顔が青くなるのが分かった。
    振り返った先には土煙をあげて走ってくる少年が一人。最早パターン化しているこの状況。言わずもがな、ツナである。
    またしてもパンツ一枚、所謂死ぬ気の状態だ。どうしてツナはいつもいつも通学中に死ぬ程後悔する事が出てくるんだろうか。この時間だ。別に遅刻する訳でもない。
    いや、ちょっと待てよ。
    そういえば昨日の夜に、「朝に京子ちゃんと課題の相談があるから早く行かなきゃ」とかってデレデレしながら言ってたような。なるほど。それで約束の時間に遅れそうになって、リボーン君に死ぬ気弾を撃たれた訳ね。

    と、私があれこれ考えているうちに、ツナはあっという間に通り過ぎて行ってしまう。私はそのままツナの背中を見送って

    ……あれ?

    ツナはカバンも服も持っていなかったけれど、普通の状態なら「気付きませんでした」なんて言えないくらい大きな物を引きずっていた。

    「今ツナに引きずられてたのって……」

    さ さ が わ く ん だ !

    それに気づいてなんだか目眩がした。何でツナが笹川君引きずって走ってるの?毎度の事ながら意味が分からない。
    ともかくこうしてはいられない。私は大慌てで二人の後を駆け出した。

    ***

    学校につく頃には既に息切れしていた。リボーン君が来てから走り回る事が多すぎる。体力はつくかもしれないけど、毎日こんなんじゃ持たない。

    「ツナ!!」

    周囲を見渡していたら、パンツ一枚の弟の姿が目に入り駆け寄る。その手前には女子生徒が1人立っていた。その後ろ姿には見覚えがある。

    「姉さん!」
    「えっ、ツナ君のお姉さん?」

    私に気付いたツナが声を上げると、隣に立っていた女の子も促されるようにこちらへ視線を寄越した。そうだ、この子。笹川君の妹さんだ。

    「はじめまして。ツナ君のクラスメイトの笹川京子です」
    「あ、はっ、はじめまして。ツナの姉の沢田ソラです」

    丁寧にお辞儀する京子ちゃんにつられて私も慌てて頭を下げた。女同士なのに思わずどきりとする。先日遠目から見た時も思ったけど、可愛らしい女の子だ。柔らかく微笑む彼女の後には花が舞っているような、そんな錯覚がする程に可愛い。
    笹川君には悪いけど、とても兄弟とは思えないくらい京子ちゃんは癒し系オーラが出ている。これなら並盛のアイドルって言われてるのも頷けるかもしれない。
    って、違う。今は京子ちゃんに見とれている場合じゃない。

    「ツナ、何で笹川君引きずってたの」
    「え、あーそれは……」

    私が頭を振って本題に入ると、ツナはばつの悪そうな表情を作った。その顔を見て、京子ちゃんが困ったように視線を足元へ這わす。

    「お兄ちゃんがツナ君をボクシング部に勧誘したんです」
    「ボクシング部に?」
    「はい」

    ツナが溜め息をつく。

    「それで放課後ボクシング部部室まで来いって言われて……」
    「ツナ君、ごめんね。迷惑だったら無理しなくて良いよ?」
    「あ、いや!迷惑なんてそんな!」

    心配そうな表情を見せる京子ちゃんにツナが慌てふためく。
    本当はボクシング部に入るのなんて嫌な癖に。京子ちゃんの前だからって良い格好して、これじゃあ引けなくなるじゃない。大丈夫なのかな、ツナ。……まあ私も人の事言えないけど。
    それにしても、笹川君が以前言ってたツナへの用事って、もしかしてボクシング部への勧誘の事だったのかなあ。

    「おーい、ツナー!」
    「十代目ー!カバンお忘れです!」

    京子ちゃんに取り繕うツナに呆れた視線を送っていると、背後から山本君と獄寺君の声がした。見れば獄寺君がツナのカバンを抱えて、こちらに向かって来ている。

    「じゃあ、私は行くね」
    「あ、うん」

    間の抜けたツナの返事が戻って来るのと同時に、京子ちゃんがほんわかとした笑顔で私に軽く頭を下げた。それに対して私はでれでれとした笑みを返してから、昇降口へと向かった。
    さて。今日の放課後にボクシング部部室って言ってたよね。私も行こうかな。
    笹川君には、その時にツナの姉だと言えば良い。

    何となく告げやすい状況が出来て気分が良くなった私は、走った疲れも忘れて駆け足で昇降口へと向かった。

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