「おはようございます!」
    「え、あ……おはようございます」

    反射的にそう答えてソラは笑顔の少年に頭を下げる。
    で。誰だっけ、この人。
    ソラは家の前で立っていた、この少年をじっと見つめた。少年は並盛の制服をだらしがなくない程度に気崩し、シルバーアクセサリーで身を飾っている。少々長めの髪に、強面ではあるが、ひとつひとつのパーツが整った顔立ち。多少背が低めではあるものの、その身長は中学生では標準といったぐらいで、全体的なスタイルは良い。誰が見ても口を揃えてイケメンだと言うであろう容姿だ。
    見れば見る程、ますます知らない人だよ。こんな格好良い人、普通忘れる事ないもの。女として。
    ソラが眉をひそませると、その疑問を汲み取ったのか短く息をのみ、少年は再び頭を下げた。

    「すいません!申し遅れました!俺は10代目……いえ、お姉様の弟君の右腕をさせて頂いております、獄寺隼人と申します!」
    「あ、ツナの友達。ご丁寧にどうも。私は沢田ソラです。宜しくね」
    「はい、宜しくお願いします。あと、友達ではなく右腕です!」
    「……右腕?」
    「はい!」

    そして満面の笑み。どうにも腑に落ちなかったが、つられてソラも微笑む。
    何だか変わった子だ。しかしツナの事を10代目と言ったり、自分を右腕だ、等と言っている辺りきっとマフィア絡みなのだろう。
    そう言えば数日前のある日を境に夕食で必ず「獄寺君が今日も怖くて……」とツナが話していたような気がする。転校してきたクラスメイトというのは理解できたが、ダイナマイトだの、爆発だの、訳の分からないワードが沢山出ていた為ほぼ聞き流していた。
    なるほど。これがその噂の怖い怖い獄寺君か。

    「ところでお姉様。10代目は……」

    気づけば彼を見つめてしまっていたらしい。少し困った様子で獄寺が伺って来る。その様子から、ダイナマイトだの爆発だのというワードが繋がるような感じじゃないなあ。なんて思いながらソラは続けた。

    「ツナはまだ寝てるよ。多分待ってると遅刻すると思うなあ」
    「遅刻ですか……」
    「だから待たずに先に行った方が良いと思うよ」
    「……いえ、でも自分は10代目をお待ちします!」

    獄寺はかぶりを振って、表情を険しくさせる。ああ、確かにこの顔は怖い。ツナが怖がるのは分かる。

    「っていっても一緒に遅刻されてもかえってツナは気に病むと思うけどなあ」

    というか、彼からはトラブルの匂いがするし、朝っぱらから神経を使わせるのも可哀そうだ。というのが本音だったりする。
    怯えるツナを思い浮かべながら獄寺へと視線を戻してソラはぎょっとした。獄寺は俯き、肩を震わせている。やだ、余計な事言って怒らせちゃった!?冷たい汗が頬を伝う。
    しかし。

    「流石10代目のお姉様です!よく分かっていらっしゃる!!」
    「……うん?」
    「先に教室に向かい、10代目が遅れて登校されても遅刻にならないよう手配するのが右腕としての役目って事っすよね!」
    「ええええええ!?」

    何やら極限にねじ曲がった解釈をした獄寺が、きらきらとした瞳で恐ろしい事を語るもんだからソラは焦った。

    「待って獄寺君!何か違う!多分私の言いたかった事と獄寺君の言ってる事は何かが違う!」
    「あ、お姉様!学校まで荷物お持ちしましょうか!」
    「結構です!」

    手を差し出してくる獄寺から鞄を死守し逃げるように通学路を歩き始めると、さも当然のように獄寺も隣に並んだ。
    い、一緒に登校する事になってる!いや、流れ的には別々に登校する方が不自然ではあるんだけど!
    ソラは鞄を抱き抱えたまま、横を歩く獄寺の様子を伺う。そして、見てしまった事を後悔した。
    獄寺は慣れた手つきで煙草を取り出し火をつけ、当たり前のようにそれを吸った。
    不良だ!見た感じ怖い人だけど、アクセとか校則違反してるけど、良い子そうって思ったら普通に不良だ!

    「あ、すいません。煙いっすか?」
    「い、いいえ、だっ、大丈夫」

    鋭い目つきでこちらを見て来たので、ソラは身を強張らせながら必死に首を振った。こんな所を風紀委員の彼に見られたら酷い事になる。

    「沢田ぁああああ!!」

    びくびくしながら歩いていると、背後から元気な声が聞こえてくる。ソラの大好きな、あの声だ。

    「笹川君っ」

    途端に笑顔で振り返るも、ソラの表情はすぐさま強張った。
    まずい、今は獄寺君と一緒なんだった。
    別にどうという事はないだろうが、なんとなく男の子と二人で歩いている姿を了平には見られたくなかった。
    多分そんな事言ったらリボーン辺りに「笹川了平はお前が誰と歩いてようが一ミリたりとも気にしないと思うぞ」とか言われそうだけれど、ソラ的には見られたくなかった。
    しかし今更獄寺を追い払う訳にもいかない。そもそも一緒に登校する流れを作ったのは自分だ。

    「よう、沢田!」
    「お、おはよう、笹川君」

    自然とどもってしまう。了平は特に獄寺を気にした様子はない。というか、目に入っているのかも怪しい。ソラはその様子に安心するも、少し寂しい気持ちが出てくる。乙女心は複雑だ。

    「実は沢田に極限に聞きたい事があってだな!」
    「おい、なんだテメェは」

    わあああああああああ!
    ソラは悲鳴を飲み込んで獄寺に視線を移す。彼は何を思ったのか、庇うようにソラの前に立ち、眉間にこれでもかというくらい皺を寄せ、威嚇するように了平を睨んでいた。
    折角笹川君が気にしないでいたのに、わざわざ注目させるような真似するなんて!ソラは鞄を抱きしめ慌てふためく。
    しかしそこは了平だ。やっぱり気にしていないのか、いつもの調子で返す。

    「お前こそ何だ!」
    「質問に質問で答えんじゃねえ!」
    「ストップ!待って!笹川君は同級生!元クラスメイト!友達!睨んじゃ駄目だから!」
    「しかしお姉様!」

    睨み合う二人の間に慌てて入り、ソラは両手を広げて獄寺を見た。獄寺は一瞬何か言いたげだったが、真剣に視線で訴えたらそのまま押し黙った。

    「お姉様?」

    了平が呟く。
    これまたまずい、とソラは焦って振り返った。了平の表情には困惑の色が浮かんでいる。
    知り合いの男の子に対して「お姉様」とか呼ばせているのだ。血もつながってないのに。しかも弟の友達である。いや、そもそもお姉様と呼べ等と頼んではいないのだが、そんな事は了平は知る由もない。

    「そうだったのか。スマン。勘違いしていたぞ」
    「はい?」

    何故か了平は拍子抜けしたような表情を見せるので、ソラは戸惑った。
    何だろうか。何が勘違いなのだろうか。多分この状況だと笹川君の方が勘違いしていると思うんだけど……。どぎまぎしつつ了平の次の言葉を待つ。

    「実は沢田ツナという奴に用事があってな。お前の弟だと思ったのだが」

    ちらり、と了平が獄寺を見た。

    「俺が用があるのはどうやら別人だったようだ!すまんな!」
    「えっ、あの、いやそれ多分別人じゃない――」

    言うが早いが、了平はすさまじいスピードで走っていく。ソラの声も届かない。

    「なんなんすか、あの馬鹿」

    獄寺が隣でぼやいた。

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