「ツナが勝つとは思ってもみなかったな」

    私はリボーン君へと向き直る。
    ツナには申し訳ないが、先ほどの一件は普段のツナには到底出来ない行動だった。いつもならば、頑張って立ち向かうだけでも表彰ものだ。それだけで充分過ぎるのに、今ツナは勝利まで勝ち取ってしまったのだ。
    その切っ掛けは紛れもなく、リボーン君の放った銃弾だろう。あの後直ぐにツナの様子が変わったのだ。あれにトリックがある事はほぼ間違いないと言っていい。

    「これは君の仕業なの?」

    問えばリボーン君は帽子の角度を直しながら私へと視線を移した。

    「俺は死ぬ気弾を撃っただけだ」
    「死ぬ気弾?」

    私が首を傾げるとリボーン君は弾を持って見せてくれる。

    「これで脳天を撃たれると、一度死んでから死ぬ気になって甦る。死ぬ気になる内容は死んだ時に後悔したことだ」
    「じゃあ今のは、ツナが持田と戦わなかった事を後悔したって事?」
    「そういうことだな」

    とても信じられない内容だけど、目の前で見せつけられてしまったのだ。疑いようもない。今起きた事実をそのまま受け止めるほか無い。

    「今のは死ぬ気になったあいつ自身の力だ」
    「まさか」
    「死ぬ気になれば、あいつはあれだけの事が出来る」
    「……」

    突然家庭教師だと言って現れ、死ぬ気弾という謎の弾丸でツナを後押しする。さらにはその容姿には不釣り合いなくらいに大人びている、この赤ん坊は一体何なのだろうか。

    「ねえ、君は一体何者?」

    私の問いに対して、リボーン君は赤ん坊とは思えないくらい不敵な笑みを向けて来た。



    「言っただろ、俺は家庭教師のリボーンだ」


    「やったぜ!リボーン!京子ちゃんと友達になったー!」

    夕方。部屋で寛いでいると隣の部屋からツナの声が響いた。どうやら帰宅したらしい。嬉しそうにリボーン君に話しかけているようだが、あいにく彼はツナの部屋にはいない。何故なら今、私の隣でエスプレッソを飲んでいるのだから。
    ツナの事だ。きっとリボーン君がいなくて慌ててしまうに違いない。仕方なく私は脇に座っていたリボーン君を抱えて、立ち上がった。

    「リボーン!?どこに行っちゃったんだよ!」

    案の定リボーン君を探していた弟の背中を眺めながら、私は開けられたままのドアをこんこんと叩いた。

    「おかえり、ツナ」
    「あ、ソラ姉……と、リボーン!姉さんといたのかよ!」
    「いちいちうるせーぞ」

    リボーン君が銃を構えるとツナはうっ、と呻き押し黙る。驚いた。この二人には、もう逆らえない関係が出来あがっているらしい。まったく、この赤ん坊は本当にデンジャラスだ。
    苦笑して見ていると、リボーン君は私の腕の中から軽やかに飛び降り、ベッドに座る。

    「そうだ、ツナ。マフィアのボスになるんでしょ。リボーン君から聞いたよ」
    「ええええええ!?何で姉さんに話してるんだよ!リボーン!」
    「お前の事を色々心配してたからな。お前が帰ってくる前に教えてやった」
    「教えてやったじゃないよ!俺はマフィアになんかなるつもりはないんだって!」

    必死に拒否するツナをリボーン君が容赦なく蹴り飛ばす。恐ろしい。赤ん坊だと言うのにいとも簡単に中学生男児をのしてしまった。幾ら喧嘩の弱いツナとはいえ、この体格差で勝ってしまうリボーン君は本当に強いヒットマンなのだろう。

    「ソラ姉も何とか言ってよ!俺は平凡な生活を送りたいんだよ!」
    「うーん、まあ、マフィアになる云々は後から考えれば?」
    「何だよそれ!裏切り者!」

    そう叫べば、ツナは再びリボーン君に蹴り飛ばされ、完全に沈黙した。本当この子容赦がない。
    それにしても、裏切り者なんて酷い言われようだ。私はいつでもツナの味方のつもりなのに。
    確かにね、マフィアになるとかどうとか、そういうのはツナには似合ってないと私も思う。そもそもマフィアとか殺し屋とか、リボーン君に説明してもらったけれど正直まだ意味が分からないし、信じがたい。
    でも私は、リボーン君がここにいるのがツナにとってとても良い事のような、そんな気がするのだ。

    「そうそう。今日の体育館の、見たよ」「えっ、み、見てたの!?」
    「うん。びっくりしちゃった、やるじゃん。格好良かった」

    微笑んで見せれば、ツナはむすっとしていた表情を和らげ、照れ臭そうにして頬を掻いた。まったく、現金なものだ。途端に私のイタズラ心が刺激されてしまう。

    「にしても、京子ちゃん、可愛いね。友達になったんだ?」

    にやにやとしながら肘で脇腹をつつけば、ツナの顔が茹でダコの様に真っ赤に染まった。

    「きっ、聞いてたのかよ!!」
    「あんな大きな声で叫んでたら隣の部屋につつぬけだよ」
    「本当馬鹿だな、さすがダメツナだ」
    「うるさいよ!」

    大声でリボーン君に怒鳴りつつも、ツナの顔は赤い。
    そうか。ツナは京子ちゃんが好きなのか。だから逃げずに持田に立ち向かおうと思ったのかな。気付かぬ間に、なんだかツナも成長してるんだななんて思うと、少し感慨深いものがある。

    「ああ、もう最悪だよ!」

    軽くからかっただけだと言うのにツナは耳まで真っ赤にして、恥ずかしさからかじたばたと暴れ始めた。何だか面白い。まさかうちの弟にこんな可愛い一面があったとは。
    自然に笑みがこぼれると、リボーン君と視線がぶつかった。どうやら私を見つめていたみたいだ。どうしたの?と首を傾げて見せれば、彼は呆れたように溜息を吐く。

    「ソラ、お前笹川兄に告白出来ねーくせに人の事笑ってらんねーだろ」


    …………。

    ……。

    え?


    「えええええええええ!?」

    今のは私ではなくツナの声だ。あいにく、私は今リボーン君に言われた事をまだちゃんと把握出来ていない。
    今、この子、何て言った?

    「笹川兄に告白出来ねーくせに人の事笑ってらんねーだろって言ったんだぞ」
    「あ、そうそう、それだ……って何で私の考えてる事が分かったの?!」
    「俺は読心術も心得てんだ」
    「勝手に人の心を読まないでよ!あ、っと、そうじゃなくて、何でリボーン君が私の気持ちを知ってる訳!?」
    「俺はツナの家庭教師だぞ。教え子の身辺調査も仕事のうちだ」
    「ツナの事だけで良いでしょ!わ、私の身辺調査なんか必要ないじゃない!」リボーン君が私の気持ちを知っていた事やら、それをツナの前で暴露された事やら、何故かツナが顔を赤くしてこっちを見ている事やら、もう、全部が恥ずかしくて、私はパニックになった。
    顔が熱い。あああ、嫌だ、私絶対顔赤くなってる。ツナの前なのになんなの、これ。どういう罰ゲームなの!
    私は恥ずかしくて仕方がなくて、その場にあったクッションを抱きしめ顔を突っ込んだ。しかし空気を読まず、横からツナがつついてくる。

    「ね、ねえっソラ姉、ほんとに京子ちゃんのお兄さんが好きなの?っていうか、京子ちゃんってお兄さんがいたんだ」
    「うっさいなあ!今は、ほっといてよ!」
    「まったく、姉弟揃って笹川兄妹に気持ちを伝えられず片思いとは。だらしねーぞ」
    「「ほっといてよ(けよ)!!」」

    かくして。
    我が家に赤ん坊であり、家庭教師であり、ヒットマンでもある、そんなすごい肩書を持ったリボーン君が同居する事になった。


    少年の勇姿を見よ



    あの後、うるさいと姉弟揃って銃をつきつけられたのは言うまでもない。

    (2011.05.04)

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