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変化‐2‐ [ 52/196 ]
全蔵が姿を現さなくなってから随分と経った。実際にはその翌日から、桂は奇妙な焦りを感じていた。
――じゃ、バイバイ
全蔵はいつも別れの挨拶などしただろうか。そんなことすら今の桂にとっては遠い昔のことのように靄がかかって思い出せないが、あの時の言葉は違った意味を含んでいたように思えた。
だとしたら、自分はボロを出したのか。好きという素振りを見せてしまい、失格だということか。
それならそれでいい。だが、もしも違ったら?
彼が消えたことに何らかの意味があったとしたら?
例えば、彼の仕事は忍者だ。ならばそれに失敗したということも考えられる。
もしくは付き合っている彼氏に何かされたのか。有り得なくもないことだ。
どうすればいいか。そんな時相談する相手は、一人しか思い浮かばない。
ならばこれは『依頼』ということになるのだろうか。
「これは依頼だ坂田銀時」
この男は、数週間前にそう言った。
今週も無事買えたジャンプに目を落とすふりをしながら、銀時はそっとソファーを見た。そこにいた男は当たり前のように万事屋のソファーに寝転んでいた。
――俺を匿え
数週間前にそう言ったことなど忘れたかのように。
「服部、お前何であんな依頼してきたの?」
「………」
「あ、寝たふりかよコノヤロー」
匿え、とは聞いた。しかし誰から?肝心のそれを聞いていなかったのだが、どうにも聞き出せそうにない。
「そういやさ、ヅラが探してたんだけど」
「………」
そのまま寝たふりを続けるかと思ったら、全蔵はゆっくりと体を起こして銀時の方を見た。
「いつ」
「えー…今朝かな」
「どこで」
「そこら辺」
「……バラしたか?」
「まさか」
銀時が口にしたと同時にまたソファーへ寝転ぶ。それきり、全蔵は口を開かなかった。
……これは、桂が絡んでいると考えていいのだろう。
全蔵を匿う上でのメリットは、幾つかある。たとえばジャンプ代を出してくれるとか報酬だとか。
だが報酬はしっかり前払いで貰っている。だから目下のところメリットはジャンプ代のみとなる。
ではデメリットはあるか?
……ある。
「お前らまだホモしてるアルか?」
この誤解だ。
「神楽ー…だから言ってんだろ。あれは依頼主だっての」
「禁断の愛アルか?」
「いや別に依頼主との色恋沙汰は禁断じゃねーだろ」
どうにかしなくてはいかない。
そう、どうにか……
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