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ドンヒラ
2020/05/21 04:24


※ドンヒラのつもりで書いたけどカラ松がもうヒラじゃないので何かが間違ってるけど本人はこれはドンヒラだなどと供述しており……

※保留組が三兄弟で日本に住んでます。出てこないけど他の合格組もイタリアにいると思います。ドンと兄弟かはよくわかりません。






元々自分は会社といったものに向いていなかったのだと思う。連日の残業。上司からのパワハラ。体を壊してもすがり続けていたが、もう、耐えられなかった。
あのチョロ松にさえ「もう辞めなよ」と言われたくらいだ。よほど自分はひどい顔をしていたのだろう。

「僕らが養ってやるから」
「カラ松にいさん、このままだと死んじゃう」

どうして、弟たちにできることが自分にはできないのだろう。どうして、弟たちにこんなことを言わせてしまうんだろう。
俺が兄なんだからしっかりしないといけないのに。

それでも、泣きながらカラ松を抱きしめ、会社を辞めるよう説得してくる二人の弟に頷いてしまったのは。やっぱり限界だったんだろうなと思った。





カラ松が就職した会社は俗に言うブラック企業というものだったらしい。とはいえそれは辞めた理由にはならないだろうとカラ松は思った。チョロ松と十四松はまだまだ働いてるのに。
そういうと彼らは口をそろえて「そりゃあカラ松兄さんのとこに比べたら真っ白だからね」という。
白いとか黒いとかじゃなくて、仕事なんてどれも大変に違いないのに。

さて、仕事を辞めたカラ松は急にできた暇な時間を持て余していた。弟たちが働いているのに家でごろごろしているわけにはいかないからと家事にせいを出したりしてはみたものの、どうもうまくいかない。

いつも頑張っている弟たちに何かしてやれることはないか。そう悩んでいたカラ松がその雑誌記事を見つけたのはきっと神様のプレゼントだったのだろう。




「ブラザーたち、イタリアに行かないか?」










そんなわけで、イタリア。

使う暇もなく働き続けていたおかげでいくらか貯まっていたカラ松の貯金と、全部出してもらうわけにはいかないと出してきた弟二人の給料を足して。兄弟三人水入らずで初めての海外旅行。

初めての海外旅行だったのだが……
「チョロ松、じゅうしまつー」


カラ松は泣きながら弟たちの名前を呼んでいた。
そう、この年になって迷子になったのだ。

つい、あのジェラートおいしそうだなあとかあの店はなんなんだろうとか、よそ見をしまくっていたせいだろうか。
気がつけば一緒に歩いていたはずの弟たちは姿を消していた。
異国の地で迷子……このまま一生会えなかったらどうしよう。そんな不安がカラ松に涙を流させた。

みっともなく泣き叫んでいると、目の前に一人の男が立ち止まった。

『………………』

真っ白な汚れ一つないスーツに薄い紫色のシャツ。それから濃い紫色のネクタイ。頭上には白いハット。
はたしてこれは一般人といえるのか。カラ松は涙を引っ込めてまじまじと男を見た。
なんだかイタリア語で話しかけられているみたいなのだがカラ松にはさっぱりわからなかった。チョロ松なら少し勉強してきたみたいだったからわかったろうに。


『……ガッティーナ』

一言だけ聞き取れた言葉は聞いたことがあった気がするけれど何を意味するのか思い出せなかった。ただ男は優しくカラ松の髪を撫でてくれた。子猫をあやすように。

「慰めてくれるのか? ありがとう」

それだけでカラ松はこの怪しげな男がいい人に違いないと思った。

笑いかけると男はぴたりとその手を止めてしまった。心地よかったのに残念だなあと思っていたら、


『…………』

「え?」

男はその紫色のネクタイに手をかけると、緩めた。
するりと首からぬけたそれを、カラ松の手に握らせる。

「え、なんで」

カラ松が戸惑っていると、男は頬に音を立ててキスをした。誰の、と思いたかったけれどここにいるのはカラ松だけだった。

『チャオ』


そして男はいなくなった。









あの後すぐ弟たちが怒りながらやってきて。口々に「心配したんだからね」とカラ松を責めた。謝りながらおいしそうだと思ったジェラートを奢ってやって、機嫌をなおしてもらうことにした。
彼はいったい何者だったのだろうか。考えたところで答えはでるはずもない。言葉が通じなかったところ、やはりイタリアの人だったのだろう。

ポケットからそっと紫色を取り出す。

チャオという言葉だけわかった。幼い頃幼児向けの番組で歌っていたから。

「チャオ」
こんにちは、とか、さようならとか。

またね、とか。






翌日、ホテルから出るとそこにあの男がいた。

「昨日ぶりだな、カラ松。俺の愛しい人」

青色のバラを花束にして、カラ松に差し出してくる。
あれ、名前教えたっけ。それに日本語しゃべれたの?

「昨日から勉強した。一目惚れだった」


そう言って、ひざまずいて、手の甲にキスを落とす。


「俺のお嫁さんになってください」



それがイタリアマフィアのドン、イチマツとの出会いだった。



***つづかない





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