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取り違い(おそまつ・一カラ)
2020/05/21 02:49

※一カラというか一←カラもどき

※六つ子内取り違い事件があったとしたら?という疑念にとらわれたカラ松のお話

※小林泰三さんの「完全・犯罪」より、「双生児」の内容に触れていますが、オチに関するネタバレはないと思われます









小さいころの自分たちは六人で一人だった。

今でこそ六つ子は六つ子ではなく、六人の兄弟になっているけれど。子供のころはもっと違った。個性なんてありはしなくて、六つ子同士でも見分けがつかなくなるくらいで。
でもそれが不便だとはちっとも思わなくて、それが自然だったのだ。

いつの頃からか、『ひとつの六つ子』は『六人の兄弟』へと変わっていった。そりゃあ、今だって誰かが誰かのフリをすることは簡単だ。それでも、昔ほど自然に、当たり前のようにそれをすることは難しいだろう。
それほどに、自分たちには、知らないことが増えた。
隠し事も、隠してはいなくても、知らないことも。





自分は本当に松野カラ松なのだろうか。そんなことを思い始めたのも、六つ子が六人へとなった頃のことだった。

「お前は変なこと考えるなあ」

おそ松は呆れたように言う。
「お前がカラ松だってことは、お前自身がよおく知ってるだろうさ」

それはどうだろう。

六つ子はよく似ていた。両親にだって見分けはつかない。自分たち自身にも見分けはつかなかったし、つかなくてもよかったのだ。両親が自分をおそ松と呼ぶこともあったし、チョロ松と呼ぶこともあった。それだけではなく、自分が一松であると自覚していることも、十四松だと思っていたこともあった。もちろん、トド松の時も。

自分は本当に、生まれたときからカラ松だったのだろうか。本当に、二番目に取り上げられていたのだろうか。最初から今まで、ずっとカラ松だったのだろうか。

病院内で、赤の他人が取り違えられるのだから、自分が六つ子の中の誰かと取り違えられていてもおかしくないのではないか。
そういうことだ。


六つ子は姿形も名前も、全てを共有していた。それができなくなってずいぶん経つ。他の兄弟が考えていることがわからなくなって。自分が何者かわからなくなって。
ただ、自分が自分であることを確かめるように、松野カラ松を演じる。
周囲からも、兄弟からも、痛いなあと思われて。それでもそれがカラ松であると思ってもらえるなら。六つ子の一人ではなく、カラ松であると思ってもらえるなら、それでよかった。
なぜなら六つ子はもう六つ子ではなく、六人の兄弟であり。自分だけが六つ子の中の一人になったとして、六つ子には戻れなかったから。



戻りたいと、思わないわけがなかった。他の五人は自然に、自分を置いて変わっていった。カラ松はただカラ松を作り出すことしかできなかった。
だから、カラ松は自分がカラ松なのかわからないままだった。

「仮に六つ子内取り違い事件があったとしてだよ」
チョロ松はため息を吐いてから、
「でもカラ松兄さんは少なくとも十年くらいはカラ松兄さんなんだし」
「まあそうだが」
「だったらカラ松兄さんが本当はおそ松兄さんだったとしても別にそのままでいいんじゃない」


そうだろうか。

「オレよくわかんないけど、オレはずっと十四松だったと思う!」

「取り違いがあったとして、認めたとして、どうするの?名前変えたいの?」


そうじゃない。
そうじゃないけど。








「別に、あんたがカラ松じゃなくて十四松だったとしても、俺はあんたが嫌いだよ」




頭から冷水を浴びせられるような四男の声で、カラ松は昔を思い出した。



−−俺、あんたのこと嫌い

六つ子が六人になったきっかけは、一松がカラ松に浴びせたその言葉だった。
それまで六つ子は一つの六つ子でしかなかったのに。その日一松は、六つ子からカラ松を切り離したのだ。
切り離されたカラ松が呆然としている間に、彼らは個性をつけていった。
カラ松はどうして自分だけが嫌われたのかわからないまま、六つ子の自分を捨てて、偽物の個性を作り出した。




本当は、自分がカラ松でもそうじゃなくても、どっちでもよかった。

六人の兄弟ではなくて、一つの六つ子に戻りたかった。
一松に嫌われていないあの頃に戻りたかっただけだったのに。





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