そこらかしこで腹の虫が暴れ回る音が聞こえる中、俺はただ窓から机に差し込む日の光を見つめていた。これが終わると昼休みだと思うといつもは不快に思えるチョークの音や先生が発する謎の言葉の羅列も左から右へと流れていく。
日の光を見ると、昨日出会った彼を思い出す。太陽のように明るい、俺より年上の人。オレンジ色のバンダナが特徴的だった、円堂守さん。彼は一体何者なのだろうか。どんな人なのだろうか。俺は側に置き去りにされていたシャープペンを手に取り、真っ白なルーズリーフの片隅に「円堂守」と書いた。


チャイムが鳴ると、すぐさま生徒らは立ち上がり、机をくっ付けたり弁当を持って移動をし始めた。俺は鞄から弁当を出し、スタンバイをする。するとすぐに、3人が俺の机に椅子と机をくっつけ始める。

「あーお腹空いたねえ」
「緑川いつもそればっかり」
「ヒロトこそ、さっきお腹鳴ったでしょ」
「ばれてた?」
「それ俺のほうにも聞こえたよ」

緑川、ヒロト、吹雪が話しながら弁当を机に置いた。色とりどりの弁当を横目に見ながら自分の弁当を開けた。俺はさっさと昼食をとりたい。「いただきます」そう言うと3人も「いただきます」とばらばらに言いながら弁当を開け始めた。そこで吹雪が思い出したかのように、俺を見据えて言った。

「そういえば風丸くん、朝携帯買ったとか言ってたよね?」
「あーうん。まだ使いこなせてないけど」
「とりあえずアドレス交換しようよ」

そう言うとヒロトと緑川が「俺も」と言い、携帯を取り出した。それはいいのだが、未だに赤外線通信がよくわからない。というかどこにあるのかがよくわからない。昨日は円堂さんに手伝ってもらったからなんとか出来たのだけど。そんなこともお見通しなのか、ヒロトが「やってあげるよ」と言ってくれ、素直に携帯電話を渡した。ヒロトは慣れた手つきで携帯電話を操作する。まだあのレベルには程遠いな。そう思っているうちにヒロトはもう俺の携帯電話にアドレスを入れ終わったみたいだ。

「ふふ、風丸くんの一番目のアドレスだね」
「いやヒロトのは二番目だよ」
「え?もしかしてもう自宅とか入れたの?」
「あー違う違う」

ヒロトは不思議な顔をした後、「ちょっとアドレス帳見せて」と言われたのでこくりと頷いた。吹雪と緑川も携帯電話のディスプレイを覗いている。すると吹雪と緑川も不思議な顔をした。

「ねえ風丸、円堂守って誰?」
「昨日会ったひと」
「ええ!?つまり全然知らない人ってこと!?」

緑川がポニーテールを揺らしながらがたりと椅子を揺らした。俺は驚きながらも頷くと、他の2人も目を見開いて俺を見ていた。そんなに驚くことなのだろうか。俺が首を傾げると、3人は呆れた顔で俺を見る。何かおかしいことでもしただろうか。ヒロトが小さい子供に言い聞かせるように言った。

「あのねえ、知らない人と簡単にアドレス交換しちゃだめだよ?」
「知らない人じゃないって、円堂さんだよ」
「もーそういうことじゃなくて…学生だったの?」
「いや、違うと思う。大人だったよ。でも大学生…かなあ?」
「ええ…そんな曖昧なの?」

そういえば円堂さんのことなにも知らない。というか凄い喋ったわけでもないし。今日のお礼とは言っていたが、まだ日時が決まったわけでもない。先日来たメールは俺がいつ空いてるかという内容のものだった。それにしても何してる人なのかな。

「でも、俺と気が合いそうなんだよね」
「なんで?」

吹雪がコーヒー牛乳を飲みながら聞いてくる。携帯電話についていたストラップを見れば一目瞭然だったし、少し日焼けした肌は運動をしている証拠だった。相変わらず降りかかる日の光の暖かさを心地良く思いながら口を開いた。

「サッカーが好きみたい」

あー…と3人は一斉に納得の色を見せた。
俺は円堂さんのことを思い浮かべながらペットボトルの蓋を開けた。

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