本当は好きなのに



最近、円堂の様子がおかしい。
…だからなんだって話なんだけれども。いつもおかしいだろって話なんだけれども。前、一緒に買い物をしたときから俺と目を合わせようとしない。更に俺のことを明らか様に避けている。そのときのりんごのような赤い顔が脳に張り付いている。ああ、胸やけしているようにもやもやする。小さな痛みさえも感じる。…別に避けられてるからって、悲しいわけじゃない。関係ないし。気に入らないだけだ、きっと。


「…風丸、元気ないね」
「えっそうか?別に…なんともないけど」
「円堂さんとなにかあった?」

時に緑川は鋭い。思わず目を見開いてしまう。そんな小さな仕草も見逃さず「やっぱり」と緑川は困った風に笑った。一見鈍感そうに見えるけど、他人に関しては鋭いほうだ。平常心を保ってても、何かしら悩みを持っているとすぐ緑川に見ぬかされてしまい、その度心配をしてくれる。だから俺は、緑川と友達なんだけれども。

「まあ何があったか知らないけどさ。好きな人と何かあったら元気も無くなるよね」
「…は?好きな人?」
「え?違うの?てっきり円堂のこと好きなのかと」
「んなわけないだろ!どう見たらそう思うんだ!」
「だって誰かのためにそこまで悩めるって、…そういうことだろ?」

そういうことって、つまり、俺は円堂のことが好きだということ?
ありえない。円堂は男であるし、ただの友達であるし、なにより悪魔だと名乗る変なやつだ。少女漫画じゃあるまいし。

「まあどっちでもいいけど…俺は応援するよ。面白そうだから」
「お前なあ…」
「冗談だよ。でも応援してるよ。そして心配してる。これは本当」

あまり見せない真面目な顔で言われたもんで、思わず目線を逸らしてしまった。小さく頷くと、緑川は背伸びをして他愛ない話をし始める。
俺は、円堂のことをどう思っているのだろうか。


「なあ、お前最近変だよな」

寮への帰り道、沈黙の中思い切って聞く。円堂はぎくりとした顔をしていた。「俺何か怒らせた?」円堂は一旦立ち止まり、地面を見つめる。何か話し始めるかと思ったけれど、口を閉じたままだ。これじゃ埒があかないので、円堂の目の前に立ち、力強く顔を両手で掴んで目線を無理矢理合わさせる。じっと、円堂の栗色の目をみる。すると円堂の顔がどんどんと赤くなってきて、熱くなってくる。熱でもあるのだろうか。でも悪いが今はそんな場合じゃない。俺は円堂に何があったのが聞こうとして口を開く。すると、いきなり顔を掴んでいた手が振り払われる。

「あっ…ご、ごめん!今のは、…風丸?」
「……悪かったな。そんなに俺のこと嫌いかよ」

どうしよう、胸の奥がずきずきと痛みを増している。ざくざくと、鋭く斬りつけられているようだ。痛みから視界が滲む。
緑川の言ったことなんて、嘘だ。きっと円堂は俺のこと、

「…嫌いなんだろ?じゃあもう、俺のこと守ってくれなくていいから」
「待った!違うんだよ!そうじゃなくて」
「円堂くん?」

そのとき、聞いたこともない女性の声が聞こえた。聞こえた方向に顔を向けると、女性はしまった、という風にバツの悪い顔をした。

「ごめんなさい、お取り込み中だったかしら」

名前もわからない、見たこともない女性の名を、円堂の口から聞いた。「…秋」なんだか、大きな嵐の予感がする。

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