非日常よ、こんにちは



今日も今日とて、良い天気だ。春の日差しは一年間の中で最も気持ちがいい。猫がこぞって日向ぼっこしてそうだ。「なあ」出来れば俺もそれらに参加したいくらいだ。今からでもこの地面に寝っころがりたい。「風丸」いや、それならば雑音もなく煩い声も聞こえない静かな所がいい。「無視すんなよー」そう、例えばだ。こんなうざったい声が聞こえない場所。

「なあなあ」
「だー!うっさい!なんなんだよお前!」

怒声を浴びせたものの、きょとんとした顔で「何を言っているかわからない」とでも言いたそうな顔をしているこいつ。こいつは円堂守、自称悪魔。そして自称王子。あり得ないから俺は全く信じてない。
俺は昨日円堂に助けられた。だが俺はこれからも円堂に助けられる日々が続くらしい。円堂は「これからも守るから恋人のかわりをしてほしい」と言った。言っておくが、俺は男だ。頼む相手が間違っている。そう言おうとしたが、とっとと立ち去ってしまったのだ。寮の門限があると言って。そんな訳で有耶無耶になってしまったのだ。

「なあ、円堂」
「ん?」
「昨日のことなんだけどさ、こいび」
「あー!言い忘れてた!俺、今日から風丸の部屋に住むから!」

…はあ?



「それは急展開だね」
「…緑川、お前楽しんでないか」
「えっ?…そ、そんなわけないだろ」

楽しんでる。こいつ、確実に楽しんでやがる。現に満面の笑みを浮かべてやがる。
暖かい日差しが差し込む教室で談笑する。談笑というか、相談ではあるけど。もうすぐ4時間目が始まる中、ぐうぐうとお腹を空かせた生徒が早めのおやつを食べている。

「それで?風丸はどうするの?」
「もちろん断るに決まってるだろ」
「じゃあどうやって自分の身を守るのさ」

それに対してはぐうの音も出ない。俺は平均以上に運動神経も長けてる方だとは思うし、力も並々あるとは思うが、昨夜のような出来事がまたあったら今度こそ殺されそうな気がする。

「とりあえずその恋人の代わりとやらの詳細を聞いてみれば?」

そこで授業開始のチャイムがなる。早めのおやつを食べていた生徒や空腹を訴えていた生徒など全員が一斉に席につく。
まあ、急いで断る理由はないし、とりあえず聞いてみるか。そう思いながら教科書とノートを机の上に出した。



やっと退屈な4時間目が終わった。もう腹の虫が待ち切れないという風に暴れ回っている。俺は授業中静かにしろと窘めていたが、もう限界だ。すぐさま弁当を持って緑川の元へ行く。

「早いなあ、風丸」
「腹が減ってるからな」
「俺も腹減ったー」

そこで、ぴたりと弁当の蓋を開ける手が止まる。今の声、明らかに緑川とは違う。ならば誰?その問いに即座に回答が頭に浮かぶ。

「…なんでここにいるんだ、円堂」
「えっ!?円堂!?」
「お昼一緒に食べようぜ!」

にかりと無邪気な笑顔をみせる円堂。何なんだこいつは。ふと、緑川がこそっと耳打ちをしてくる。

「これ恋人の代わりとやらを聞くチャンスじゃないの?」
「…ああ。そうだな」

確かにチャンスとは言える。ただきっと放課後も円堂は来るだろうけど。まあ聞けるならさっさと聞いたほうがいい。俺は円堂にずいっと迫る。

「なあ、恋人の代わりって…どういうことだ?」
「どういうことって…そのまんまだけど」

そういいながら卵焼きを頬張る円堂。それはそうなのではあるが、

「理由とか、何をすればいいとか、」
「あーそういうことか!」

それから円堂は昼飯を食べながら話し始めた。
彼はこれでも一応王子。だから最終的には王になり、家を継がなくてはいけない。そして途絶えさせないようにしなくてはいけない。そのためにも、結婚をして子供を産まなければならない。だが円堂は未だに妻どころか恋人すらいない状態。だが円堂はまだそういうのは要らないらしい。この状態に両親はよく思っていないらしい。とりあえず建前上恋人がいることを証明すればひとまずは安心なのだが、恋人の代わりを頼める女性はいない。その前に女性にそういったことを頼むのは失礼なのではないか。

「そこで男に頼めばいいと思った。でも女のような容姿を持つ男なんていないと思った。いっそ人間でもいいと思った」
「…そこで風丸を?」
「見つけたわけということだ」

なんてはた迷惑なんだ。それに女のような容姿なんか持ってない。緑川は俺に顔を向ける。

「ねえ、お願いしてみたらどうかな。一応ってのもあるし…」
「別に恋人らしいことしろって訳じゃないからさ。頼む!」

円堂は手の平と手の平を合わせて懇願してくる。一見すればお互いメリットがある取り引き。それに円堂はこんなにも真剣だ。ならばこう言うしかないだろ。

「…わかったよ」
「…えっ、ということは…」
「お願いするよ。…よろしく」

すると円堂はぱあっと太陽が雲間から出てきたような笑顔を見せる。きらきらした瞳が俺を捉えている。

「よろしくっ風丸!」

ああ、非日常よ、こんにちは。

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