世界が違うように思えた



よく夢をみる。
それは暗闇の中に俺と知らない誰かがいて、俺はその誰かに馬乗りにされている。酷く怯えた様子の俺にその人は優しく頬を撫でる。が、訳もわからず怯えている俺は、その人の顔を見ようとする。でも暗闇で見えなくて手を伸ばそうとする。
夢はそこで終わる。目を開けると見慣れた天井が視界を支配する。ゆっくりと身体を起こして、己の水色の髪の毛をがりがりと掻いた。そしていつもの通りの一言を発する。

「…またこの夢か」



学校に着くとでかい校門が見える。高校とは思えないくらい豪勢なもので、まるでお城のような門だ。そんな門にたくさんの生徒が群がっている。この高校は男子校なので群がる生徒らは男子ばかり、非常に目に良くない。こんな風景も日常茶飯事だ。
横目に見ながら生徒用玄関を抜け、教室へと向かう。まだ少し朝早いからか生徒はまばらで昼休みのときのざわざわ感とは正反対で静かで落ち着いた雰囲気に包まれている。その中でひとり、ぐうすかと夢の中へと誘われている男子の元へ歩み寄る。そして黄緑色の髪の毛を見つめ、グーでこつんと軽く叩く。それで起きたのかもぞもぞと身動きをした後勢いよく顔を上げた。おでこにはブレザーの跡がついててなんとも滑稽な姿になっていたので思わず鼻で笑う。

「…なんで笑ってるの、風丸」
「別に。おはよ、緑川」
「おはよー」

俺が緑川と呼ぶこいつはクラスメイトであり、友人。緑川は重い瞼を擦る。するとどこからともなく騒がしい声が聞こえてくる。といっても、声の出どころはわかっている。迷わず窓の外…校門辺りを見た。

「またかー」

緑川が呆れながら苦笑いをしてその様子を見ている。その様子というのは、校門に群がっていた男子は、たった今登校してきた美男子に群がり始めている。これが毎朝の光景。さっき校門に群がっていたのは、美男子に朝から挨拶をするためである。正直言って見てて気持ち悪いが、入学してから一ヶ月経つともう慣れてしまった。美男子と呼ばれる人達は次々と門をくぐり、同じように男子も移動していく。そこだけ異空間のように感じられた。
そして美男子らは自分たちがいつも使っている玄関とは違うところに向かって行く。その玄関は特別棟に繋がっていて、群がられている奴らはそちらの特別棟で授業を行っている。もちろん美男子ばかりって訳ではないのだが、不思議と美男子揃いの彼らは何故俺らと違うところで授業を受けているのか。答えは単純、そして難解。緑川がその答えを口にする。

「悪魔さんたちは大変だね〜」

そう、彼らは悪魔である。群がっている一般生徒らはもちろん知っての上だ。
俺も一月前に聞かされて驚いた。といっても表向きにはただの「特別階級生」ようするに頭の良い奴らの集まりだ。だがその根も葉もない噂はすでに全校生徒に知れ渡っているのが現状。だが俺は全く信じていない。どこぞの少年漫画かわからないが、そんな非現実的なものが存在するとは思えない。
だが目の前の緑川は信じているらしい。なんでも彼によると悪魔は人の生命力を食らうらしく、実際食われて入院した人がいたらしい。なんともはた迷惑な話だ。

「あっ、あれ円堂守じゃない?」

緑川が指をさす方向には、栗色の髪の毛にオレンジのバンダナを巻いている少年がいた。彼も緑川によると悪魔で、しかも王子だという。ここまで来ると胡散臭さしか漂わない。

このとき俺は思いもしなかった。
この後、思わぬ形で彼と関わっていくことになるなんて。

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