決意に答えたい



そして当日になった。
朝から円堂と久遠は楽しげに出掛けて行き、見失わない内に俺と緑川、何故かヒロトまで見つからないよう裏口から2人を追った。
全く、なんでせっかくの休日にこんなことをしなくてはならないのか。確かに2人のことは気になるけど、尾行するのは何だか気が引ける。それに、先日彼女から言われたことが魚の骨のように引っ掛かってチリチリしている。

「まあまあ、そんな怖い顔しないでよ」
「…別にしてない」

明るい様子で他人事のように言う緑川をじろりと見た。人の気も知らないでこいつ…。ヒロトは俺たちの様子に呆れ顔だ。

「まあいわゆるあれだよね、ジェラシィ〜ってやつ」
「…は?」
「そうだよねー好きな奴が他の子とデートしてたら嫉妬するよねー当たり前のことだよ」

うんうん、と彼は頷く。
嫉妬、俺は嫉妬をしていた。でも何だか、それを認めると自分は幼稚のような気がしてならなくて、癪だ。
好きなんだ、例え「別れろ」と言われようとも、普通の恋のように嫉妬して、それでも好きで。それが堪らなく照れ臭くて、俺は火が出てるんじゃないかと思えるくらいに顔を熱くした。「耳まで真っ赤だよ」とヒロトはくすくすと上品に笑う。

「ほら、見失っちゃう!早く行くよ!」

緑川に急かされて俺たち御一行は静かに2人のあとを追った。



…さて、俺たちは2人のデートを見守って居たのだが。特に変わったことがあるわけでは無い。普通のデートのように見える。映画を見たり、ショッピングを楽しんだり。
そんな些細なことですら胸を痛めてしまうのだが、見ないでいるとそれはそれで気になってしまうので目を離せないでいた。緑川とヒロトも興味しんしんといった感じで観察している。
しかし時間帯が夕方になってくると、さすがに飽きてきたのか普通に休日を満喫し始めていた。アイス食べたり、クレープ食べたり。女子か、という緑川の舌に驚く。俺とヒロトはアイスだけでも舌がとろけそうだし胸焼けしている。


そしてデートも終盤に差し掛かり、最近新しく出来た洋風の広場で久遠さんは円堂を引き止めた。「ついに!?」と緑川は瞳をらんらんに輝かせて身を乗り出した。こいつは当事者より楽しんでるに違いない。聞き耳を立てると、微かだが声が聞こえてきた。

「守くん、わたし守くんのことが好きです」
「…えっ」
「だから、風丸さんとは別れてほしいんです」
「…それは出来ない、無理だ」
「どうして!?人間と恋をすることはタブー…叶わないんだよ?」

久遠さんは悲痛な声を上げながら涙をぽろぽろと大きな瞳から流す。美少女の涙、普通の男ならそれだけで落ちてしまいそうだ。俺は胸をグッと鷲掴みされるような感覚を覚える。

「……そうだけど、それでも俺は…」
「俺は、何ですか」
「…風丸が、好きなんだ」

はっきりと言い放った。その瞬間、何かがこみ上げてきた。好きな奴が、自分のことを「好き」だと言ってくれている。これ程嬉しいことはない。それと同時に、何故か切なさも感じられた。

「…本気なの?」
「本気だ」

久遠さんは涙を手の甲で拭い、目を伏せた。「…わかった」そう言い残して彼女はヒールをこつこつと音を立てながら去って行った。

「すごい場面に立ち会ってしまったね…」

ヒロトは沈黙を破るようにそうぽつりと呟いた。俺はその言葉に返事をすることもなく、ただ円堂を見つめていた。悲しそうな表情で彼女の背中を見ている。すぐさま円堂の背中に飛び付きたいけど、そんな勇気は無かった。
そのとき、緑川が俺の背中をとん、と軽く押した。

「行きなよ、会って話してきな」

俺は緑川が初めて頼もしく見えた。大きく頷いて、そろっと円堂に近づく。
何歩か進むと、円堂はこちらに気付いた。驚いた顔をしてこちらに振り向く。

「なっなんで居るんだ!?」
「偶然その…見かけて」

見え見えの嘘だったが、円堂は単純なので騙されてしまった。

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