可愛らしい幼馴染



ゴールデンウィークはあっという間に過ぎ去り、木々も緑色に染まってきた。衣替えも始まってついに夏がやってきた。といっても梅雨なのでじめじめとした暑さで、カラッとした暑さのほうが良い、と愚痴をこぼすのだが、カラッとした暑さになれば何も言えないほどの暑さになり、また愚痴をこぼすのだろう。夏は別に嫌いじゃない。むしろ好きなほうではあるが、この暑さには不満を抱かざるを得ないのだ。

夏休み前はテストばっかりで時の流れが遅いように感じるが、実際にはとてつもないスピードで、夏休みを迎えてしまった。あれから特に何もなく、何も起きてない。俺たちの関係も特段変わりはない。たまに甘い雰囲気にはなるものの、何かと邪魔が入って先に進めない。でもまあこれでも良いかな、と平和を噛み締めていた夏休み前半。一難去ってまた一難という言葉通り、一難が訪れたのだ。


いつもと変わらない、蝉の声が一日中鳴り響き、照りつける太陽が気温をぐんぐんと上昇させていく夏の日。ある少女が俺たちの寮を訪れた。
水を飲みに行こうと食堂に行く途中、隣の部屋の緑川とすれ違った。「ちょうど良かった!」と言って駆け寄って来た。

「風丸、玄関にお前と円堂に用があるって言ってる女の子が来てるよ」
「はあ?女の子?誰?」
「名前はくどうふゆか…だったかな?」
「誰だ…それ円堂の客じゃないのか?」
「いや、お前にも話があるからちゃんと呼んで来て、だってさ」
「…わかった。あ、円堂はお前が呼んでこいよ」
「はっ!?なんで!?」
「俺はこのまま玄関行く、お前は自室に帰るついでに呼べるだろ」
「え〜わかったよも〜」

緑川は呆れ顔でまた歩き出した。
くどうふゆか、聞き覚えの無い名前だ。俺はなんだかまた厄介事がやってきたような気がして重い足取りで玄関へと向かった。

玄関に着くと、白いワンピースに身を包んでいる可愛らしい少女が佇んでいた。きょろきょろと周りを見回していたが、俺のことに気がつくと、俺のほうをじっと見つめてきた。

「あの、くどうさんですか?」
「はい。あなたが、風丸さん?」
「そうですが…」
「はじめまして、久遠冬花と申します」

ぺこりと行儀良くお辞儀をした。見た目同様清楚そうな女の子だ。俺も慌てて名前を名乗り、頭を下げた。
頭を上げると俺のことをじっと見ていた。それにしてもこの女の子は俺に何の用なのだろう。おそらく円堂の知り合いなのだろうが…。俺は何をして良いのかわからず、黙っていると彼女の方から口を開いた。

「わたし、守くんの幼馴染です。あの、あなたに話したいことがあるんです」

名前呼びなんだ…と、もやっとしたものを感じながら耳を貸した。
彼女が言うことには、自分は円堂のことがずっと好きだった。しかし円堂の母親から最近恋人が出来たことを知り、居ても立ってもいられなくなってこの長期期間にわざわざここを訪れたらしい。

「と、いうわけで風丸さん、守くんと別れてください」
「…そ…そんなことできるわけないだろ!」
「…守くんは王子なんです。人間が近付いて良い存在ではないんです。ましてや男なんて…。守くんは妻を持って次なる王子を産み、王にならなくてはいけないんです。あなたには、できない」

俺は、その言葉になにも言い返せなかった。彼女…久遠さんの言うことは正論だった。

そこに円堂が遅れてやってきた。休みということもあってさっきまで寝ていたのだろうか、栗色の髪の毛には大きな寝癖がついていて、大きなくりくりの目は眠たそうに半開きになっている。
そんな円堂を見るなり、久遠さんはぱあっと顔を輝かせて「守くん!」と呼びながら駆け寄った。

「あれ…冬っぺ?なんでいるんだ?」
「夏休みだからわざわざ来たの。迷惑だった?」
「いや…そんなことないけど」

二人は名前呼びなんだ…とつまらない嫉妬をしつつ二人の様子を伺っていた。どうやら久遠さんは円堂が好きというよりもベタボレらしい。

「守くん、わたししばらくこっちに滞在できるの。ここの近くのホテル借りてるから毎日会いに来てもいいかな?ここら辺来たことないから案内してほしいな」

円堂は快く頷いた。しばらく…ってどのくらいなんだろう。三日間ぐらい?まさか一週間?「じゃあ早速出掛けようよ!」久遠さんは花のような可愛らしい笑顔でそう言った。
秋さんといい、久遠さんといい、円堂の周りには美少女が多いなあ…。秋さんの場合は他に好きな人が居るらしいけど、久遠さんに至っては円堂にベタボレ状態だ。こんな美少女から好かれてて円堂はその気持ちに応えようと思ったり、付き合おうと思ったことはないのだろうか?いや、この鈍感な円堂が気持ちに気づくわけないか…。でもこの美少女をほっとく男なんてそうそういない。
だからといって「別れてください」と言われてはいと簡単に言えるほど俺も出来てるわけじゃない。彼女が円堂を好きなのと同じくらい、いやそれ以上に円堂が好きだと自信はある。


…そう思っていたのだが。ここ五日間連続で久遠さんに円堂を奪われている。円堂に会うのは朝と夜ぐらいだ。一日か二日くらいなら我慢出来たのだが、三日目くらいから俺は屍のようらしい。緑川によると。「大丈夫?」と声を掛けられたくらいだ。
食堂で一人飯に勤しんでいると、前に緑川が腰掛けた。最近円堂が不在なので緑川と二人で食べることが多い。そしてその度に俺は久遠さんと円堂に対する愚痴を呟いている。はっきり言うと寂しいのだが。

「じゃあさー久遠さんとのデート尾行してみれば?」
「は!?なんでそうなるんだよ」
「気になるんでしょー?面白そうだししてみようよ」
「お前は何でも面白そうでやるよな…」

半ば呆れ気味に言った。だが緑川の言うとおり気になる。俺は緑川の好奇心に押され、明日二人のデートの尾行をすることになった。

「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -