心に傷を負おうが、失恋しようが、バイトはさすがに休めない。円堂はいつものようにバイトへ向かった。
ただいつものような活気は無く、さすがに他のバイトの人たちや店長に心配された。円堂は「身体は元気なので大丈夫です」と作り笑いで言った。
円堂は心に傷を抱えたままバイトを頑張り、いつも通りの時間に上がることになった。いつもならこの帰るまでの支度が楽しくて仕方ないのに、今日は憂鬱だ。どうせいつものコンビニに行っても、彼に会うことは出来ないのだから。そう思うと途端に目頭が熱くなったが、上を向いて必死に堪える。ああ、俺何しているんだろうな、と円堂は更衣室の埃かぶった天井を見ながらそう思った。
「はあ…」
誰もいない暗闇で大きな溜息をついた。どうせ誰もいないのだから、何をしたって恥ずかしいことなんかない。
もう6月の中旬だから、夜であろうと若干蒸している。もう夏が近づいているのかと思うと、やけに時の流れが早く感じる。
やっぱり、彼と俺の関係なんて、そんなものだったんだ。暗闇の中、星空を見ながら円堂はそう思った。
「…あ、食べるものないや…」
昨日やけ食いしたからな。勿体無いことをしてしまった。仕方なく、足はいつものコンビニへと向かう。
しばらく進むと、裏道から大通りに出て一気に明るくなる。コンビニはこの大通りのところにある。ようやく、見慣れた看板が見えてきた。
目を凝らすと、コンビニの前に誰か居る。明かりの影でよく顔は見えないけど。こういうとき、期待してしまうものだ。この影が、彼だったらいいのに、と。
コンビニが目の前まで迫ってくる。ようやく、誰かというのがわかる。円堂は、夢を見ているんじゃないかと思った。それほどに、キラキラしていて、あり得ないから。でもこれが夢だったら、もう立ち直れないけど。
「…どうも」
彼は、円堂の顔を見てそう言った。なんだかよそよそしい感じが、妙に現実味を持たせた。
それと同時に、円堂は妙な感覚に襲われた。きっと、自然に自分でこうなることを期待していたのかもしれない。だから、「どうして」とか「なんで」という安っぽい疑問が出てこないのだ。
「…どうも」
「俺、君に名前聞いてなかったよな。あ、俺も教えてなかった」
「知ってる」
自然と敬語じゃなくなっていることに嬉しさを感じつつ、堂々と答えた。「かぜまる、いちろうた」すると彼は、はにかんで「知ってたのか」と言った。コンビニの明かりが眩しくて、でもキラキラしていてより彼が綺麗に見えた。
「俺の名前は、えんどうまもる」
「えんどう、まもる。よろしく、えんどう」
このコンビニで出会い、このコンビニで別れ、また再会した。空色の君、かぜまるはその自慢の長い髪を揺らして手を差し伸べてきた。
「よろしく」
恋は、ここから始まる。