「あ"〜終わった」

そう呻いても沈黙が跳ね返る。誰もいない夜道でひとり、寂しさを感じた。携帯電話を取り出して時刻を見る。すでに10時をまわっていた。今日はシフトが違っていて、いつもより終わるのが遅い。そのため身体には疲労が蓄積されている。現にちょっと腰を捻っただけでボキボキと心地の良い音がした。

今日はまかないを貰ったのでお腹は空いてないのだが、コンビニに寄る。理由は明確だ。店内に入ると、いつもは見える空色が今日は見えない。当たり前か、と心の中で呟く。多分ちょうど終わって帰るところなんだろう。入ったからには何かを買わないと気まずい方則により、円堂はお茶のペットボトルをレジへと運ぶ。いつもより長く感じる会計を済ませるとすぐ店を出た。そのあとひっそりと落胆し、コンビニの裏を通って帰宅路につく。
暗闇の中、コンビニの灯りが円堂と地面を照らす。ふと右を見ると、ちょうど裏の出入り口らしきドアが見えた。ああ会えないかな、今この瞬間このドアから出てこないかな、と雑念をドアに送り込む。

「あ」
「あ」

がちゃり、ドアが開く音が聞こえたあと「あ」と驚きと戸惑いが含まれている声が聞こえた。条件反射でオウム返しのように「あ」と返す。

「あ!バンダナの人!」
「店員さん?」

暗闇の中、空色の髪がコンビニの灯りを反射させてきらきらと煌めく。きらきら、きらきら。思わず目を細める。

「ど、どうも。今日は…遅いんですね」

コンビニ店員がコンビニ客に言わないような台詞を彼は口にする。覚えてるんですか、と円堂は言うと彼は苦笑いを浮かべる。

「つい覚えちゃうんですよ、すみません気持ち悪いですよね」

そんなわけねーだろー!!と心の中で叫びながら首を真横に何度も振った。ありがとうございます、恭しくお礼を彼は言う。そんな様子はどこからどう見ても可憐な女の子にしか見えない。でも好きになってしまったものは仕方ないのだろう。

それからちょっと話してからお互い帰宅路についた。円堂は歩きながら彼の笑顔を頭の中でリピートさせる。自然と顔が緩んでいたので両手の平でぺちんと頬を叩いた。夢みたいだ。まるでテレビの中に流れているドラマのような物語。

「明日の夜も、逢えるかな」

また夜に逢えることを思ったら、また頬が緩んだ。

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