最良の選択?
それからの日々はとても早く感じた。研修は大変だけど、楽しかったから。きっとそのほとんどの要因は、霧野にあると思う。彼に会うのが、次第にとても楽しみになった。
でも、研修期間には限りがある。2週間、14日間。とはいえ日曜日とは含めない上生徒に会えるのは金曜日までなので実質今日と明日で終わってしまう。
「先生、ぼーっとしてないでここ教えてくださいよ」
「………ああ、ごめん」
そうだ、きっとこれで最後になるだろう課外授業の途中だった。霧野はいつもよりも鬱気な表情をしていた。
部活に勤しむ生徒らの声が校庭から聞こえてくる。静かな空間では、それらの声でさえも響く。窓から差し込む夕陽が、霧野の顔を照らしていた。
「先生」
「なんだ?またわからないところが」
「好きです」
頭が、真っ白になる。
今、霧野は何と言ったのだろうか。好き?馬鹿な。生徒と先生だし、としが離れてるし、そもそも男同士だ。頭の中で、疑問が駆け巡る。
「先生、好きなんです。冗談とかじゃなく、恋愛として」
念を押すように霧野は言った。俺が、誤魔化さないようにするためだろうか。空色の瞳が、俺を捕らえる。真剣な眼差しに思わず目を逸らした。
どうしたら、いいのだろう。
そもそも、俺は先生で、霧野は生徒。付き合ってもいいのだろうか。よくそういった恋愛は教師の間ではタブーとなっている。そうだ。そうだ。何を悩む必要があるんだ。俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「ごめん。霧野とは付き合えない」
言った瞬間、霧野は眉尻を下げて目を細めた。まるでそんなこと言うのはわかっていたように、動揺もせず、ただただ事態を呑み込んでいるようだ。
「…すみません、変なこと言って」
ガタッと音を立てて立ち上がると、ノートや筆箱を鞄にしまい始めた。仕方ないんだ、仕方ない。光の速さで身支度して、走って帰っていった。
「…これで、いいんだよな」
後悔なんてない、はずなのに。
どうして胸がこんなにも痛むんだ。
翌日、朝から霧野の姿が見えなかった。