何も知らないフリをするの



ふうっと小さく溜息をついた。研修中はつい気を張ってしまう。そのせいかおちおち溜息をつけず、溜まってしまう。
今その溜息がつけるのは誰もしない社会科資料室に居るからだ。ちなみにそんな埃くさい所にいる理由は、ある先生から資料探しを頼まれたからだ。
それにしても資料は膨大な数で指定された資料を探すのは困難な技だ。大方は見つかったのだが、残りの1つが見当たらない。
かれこれ10分や20分は経っている。ふうっともうひとつ溜息をついた。あまりにも静かな空間なので眠くなってくる。そこに突如、明るい声が飛び込む。

「せーんせっ」
「うわっ!?…あ、」

霧野が居た。にかっと歯を見せて笑う彼は神童を視界に捉えたあと、周りを見渡した。「こんなとこで何してんの?」と聞かれたので事情を説明する。そこで霧野はじゃあ俺も手伝う、と言ってまたにかりと笑った。神童は、はにかみながらじゃあ頼む、と言った。



「ところでよくこんなとこに居るってわかったな」
「え?あーたまたま窓から見えたから」

霧野はよくこうして神童の前に現れて色々話してくれる。まだ緊張感が残る神童にとっては唯一気が抜ける相手であった。
そうこうしている内に、やっと神童は探していた資料を見つけた。だがしかし、高い。あともう少し、1センチくらい大きければ届いたのだが。何度も背伸びしていると、上からにゅっと誰かの手が伸びて資料を取った。
誰か、といってもこの空間には2人しかいないわけで。

「はい、先生」

取ってくれたのは、霧野だった。ありがとう、と小さくお礼を言いながら霧野を見つめる。今まで全く気にしていなかったけれど、霧野のほうが若干大きい。それこそ1センチぐらいの差ではあるけども。

「じゃあ、持って行きましょうか」
「あーいいよ、俺が持ってくから」
「まあまあ、別にいいじゃないですか」

そう言いながらダンボールに最後の資料を入れ、よっと掛け声をしてダンボールを持ち上げた。…そもそもこいつ、怪我は大丈夫なのだろうか。
そのことを言うと「ほとんど治ってるんで大丈夫です」と言った。それなら部活に出ろよ、と思ったが放課後の課外授業が無くなるとは少し寂しいから、言わなかった。勝手な先生だ。

ダンボールを持つ霧野を背中を見つめ、あんな顔しておきながら男らしいんだなあとか、意外と優しいなあ、とか失礼な事を思っていた。


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