「シュウ!昼飯だ!」

森で寝ていると、そんなことを叫びながら白竜が現れた。確かに今の時間帯としては間違ってはいないけれど、叫ぶことではない。そしてもうひとつ突っ込みたいことがある。何故片手にラーメン屋の出前で使う籠を持っているのだろうか。ユニフォーム姿なので更にシュールだ。僕は口をぽっかりと開ける。

「…昼飯だ!」
「二度も言わなくていいよ」

僕は静かに起き上がって詳細を聞いた。シンプルな答えだった、「昼飯を作ってきた」だとさ。いや、意味がわからない。何故突然昼飯を作ったのか。そしてなんで僕に振舞うのか。そもそもその籠どこから持ってきたのか。だがしかし白竜は自信満々そうなのであまり根掘り葉掘り聞くとかわいそうなのでやめてあげた。

「さあ、食え!」

そうドヤ顔で言いながら出前のようにガラガラと籠を開けた。
中に入ってたものは、果たしてこれは食べ物なのだろうか、甚だ疑問である物体らしきものだった。うん、これって食べ物なのかな?そう聞くと「失礼な!ちゃんとした食い物だ!俺が手作りした!」と力説した。
僕は籠の中に入っている物体を食い入るように観察した。まず黒い。どす黒い。僕の髪の色みたいだ。あとなんか異臭がする。焦げ臭さと謎の匂いが漂っている。そして形は丸いような、四角いような、よくわからない形状だ。これを、食べろと。

「さあシュウ!食べろ!」

そう言ってスプーンを手渡してきた。これ、スプーンで食べるものなんだ…。僕は白竜からスプーンを受け取り、籠から物体を取り出した。それにしてもなんだこれ、罰ゲームなの?
俺はスプーンで物体の一片を掬い、口に運んだ。次の瞬間、予想外の味が口の中に広がった。

「白竜…これ…」
「なんだ!?美味しいか!?」
「…オムライスだね!!」
「見た目でわからないのか」

わかるわけないだろ、と心の中で突っ込みを入れた。見た目は悪いけど、味はそんなんでもない。むしろ美味しいかもしれない。見た目の悪さと味の意外性に妙な感動を覚えた。
素直に「美味しい」と伝えると白竜はいつもからは想像できない柔らかい笑顔を浮かべた。その笑顔に思わず胸を高鳴らせる。いつもは無表情だからたまに笑顔を見せられると調子が狂ってしまう。
白竜は不思議な奴だ。僕が一線引いてもずかずかと入り込んできて、無表情でこんなことを突然する。かと思えばたまに笑って僕のことをかき乱すんだ。まったく、かなわないよ。

「まあ俺は究極だからな!美味いのは当たり前だ!」
「…君はなんで僕に料理を作ったの?料理の腕前見せたいとか?」
「ん、それはシュウの笑顔を見たいからだ!」

僕はその言葉を聞いてとても驚いた。まさかそんな理由があってこんな行動を起こすなんて想像もしなかった。
白竜はそのあとも話続けた。白竜からしたら僕はいつも愛想笑いをしてるように見えたらしい。というより、心から笑っていないような感じ。だから美味しい料理を食べさせて笑顔にしよう、という魂胆だそうだ。
確かにわりと美味しかったのだけど、それよりも少しぬけてる白竜に思わず声をあげて笑ってしまった。そんな理由で、わざわざ料理を作ってくれるなんて。本当に君は変わってる。僕が大笑いしていると、白竜が嬉しそうに「シュウが笑った!」とか言うもんだから笑いが止まらない。僕は笑いを抑え息を整えて、白竜に向き直った。

「あのね白竜、僕君のことが好きみたい」
「…俺も好きだが?なんだ改まって」
「ふふ、君の好きと僕の好きは違うよ」

そう言うと白竜は、わけがわからないといった顔で首を傾げる。
この告白が君に伝わるには、まだ月日がかかるようだ。

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