※超次元設定です
オレが雷門中にスカウトされてから数日が経った。まだ馴染めてない点もあるけれど、楽しい日々を送っていた。いや、そう思いたかったのかもしれない。胸にぽっかり空いた穴を見ないフリをしていたから。
「白竜!大丈夫?」
「…松風天馬。なにがだ」
「なんかぼーっとしていたから。具合悪い?」
「大丈夫だ!究極だからな!」
そういうと栗色の髪を揺らしながら笑ってまた練習に戻って行った。練習中だというのに、余計なことを考えるなんて俺らしくもない。集中しなければ。そう思って頬を軽く叩いた。
それでも、どうしても考えてしまう。影のように黒い髪に褐色の肌、あどけない笑顔。もう一度会いたい、そう願っても決してかなわない願い事なのに。毎晩のように願ってしまう。ああ、俺も未練たらたらな男だ。
その日はあまり練習に身が入らなかった、と自己反省して練習を終えた。
翌日も気持ちは晴れない。こんな気持ちでサッカーがしたかったんじゃない。そう思っても自分の気持ちというのはコントロールできないものだ。俺は気分を一掃しようとタオルでごしごし顔を何度も拭いた。そのとき、重大発表があると松風天馬がメンバーの前に意気揚々と出た。なんだろう、と思って話を聞いてるとどうやら新しいメンバーをスカウトしたらしい。これでシュウならば、そう思った自分の女々しさにいらついて頭を振った。そういうこと、もう考えたくないのに。「こちらが今回スカウトしたメンバーです!」そう言って奥から出てきた姿に俺は目を大きく見開いた。
何故なら、俺が脳内で思い描いていたビジョンがそこにあったからだ。
「シュウです。今度は仲間としてよろしく」
記憶に何度も刻まれたあどけない笑顔が目の前にあった。俺は頬をつねる、痛い、夢じゃない。現実だった。シュウは俺のほうを見て少し頬を染めていつも見ていた笑顔を浮かべた。気づいたら俺は走り出してシュウを抱きしめていた。勢いが強すぎたのかシュウごと倒れこんでしまったけれど、シュウは泣きながら笑っていた。「いたいよ、白竜」ずっと聞きたかったシュウの声が鼓膜を震わせた。ずっと、ずっと会いたかった。そう言いたいのに、声の代わりに涙がぽろぽろと頬を伝って地面へ落ちて行った。
「久しぶりだね〜元気だった?」
部活が終わって、帰り道をともに歩く。話したいことがありすぎて、考え込んでいたらシュウのほうから切り出してきた。「もちろんだ!究極だからな!」そう言ったらシュウは相変わらずだね、とくすくす上品に笑った。そういう笑い方も全てが懐かしくて、抱きしめてしまいそうになる。
あれからシュウは松風天馬にスカウトされ、実体を取り戻せたらしい。といっても俺もよくわからないし、シュウ自身もよくわからないらしい。なんとも現実味のない話だ。それでもまたサッカーができるようになってシュウはとてもうれしそうだ。そんなシュウを見ると俺もうれしくなる。
そういえば俺はシュウに前告白したような気がする。…そのときはごまかされてしまったけど、それは多分自分がいつか消えてしまう存在だったからなのだと思う。ならば今、告白すればちゃんとした答えがもらえるのだろうか。
「ねえ白竜、僕今君が考えていることわかるよ」
「…そっそんなわけないだろ」
「前に僕に告白したこと思い出してたでしょ?」
「え、なんでわかったんだ!?」
「わかるよ、白竜のことだから。ごめんね、ちゃんと返事しなくて。今してもいい?」
「えっい、いま?」
「僕も白竜のことが好きだよ。多分、初めて会ったときから、ずっと」
シュウは夕焼けのせいなのかはわからないけれど、頬を赤く染めて俺の目と目線を合わせる。潤んだ瞳がやけに色っぽく見えた。「ほ、ほんとか?」念を押してそう聞くとうれしそうにうなずいた。うれしかった、純粋に。思ってもいなかったんだ、一度あきらめた恋が、こうして目の前に戻ってきて、実るだなんて。
俺はシュウの肩に手を添えた。するとシュウは赤い顔ではにかんで「いいよ」と言った。夕焼けのオレンジ色がシュウの顔を照らしている。俺が顔を少し近づけると、シュウは身を強張らせたけど、そっと目を閉じた。「好きだよ、白竜」キスする直前にシュウがそんなことを言うから、視界が歪んでしまったじゃないか。
唇と唇を合わせて、ゆっくり離すとシュウの頬から透明な液体がぽたぽた流れ落ちていくのが見えた。面向かって顔を見渡すと、大きな目にいっぱいの涙を溢れさせていた。
「どうしよう、白竜。どうしようもなく、幸せなんだけど」
「…シュウ、」
「飛んで行っちゃったりしないかな、大丈夫かなあ…」
「安心しろ、俺が掴んでおく。俺は」
「究極だもんね!」
「先に言うな」
シュウを抱きしめると、華奢な身体が手に取るようにわかった。俺が守らなくては、そう思った。
もう、君を手放したりしない。