深夜、午前2時。空には無数の星が自己主張をするように輝きを増している。ベランダなので、よく見える上に風通しもいい。心地良い風が俺の髪を撫でた。
もう円堂も起きてないだろう。携帯電話のディスプレイに表示されている「円堂守」という文字に思いを馳せる。
明日から、俺たちは別々の場所で高校生となる。いや、明日からというよりは、今日なのだけど。それでもこんな時間まで起きてるのは、胸のもやが取れきれていないから。
別々の場所を俺が選んだのは理由がある。あいつとは学力の違いもあるし、きっと知り合っていなくても違う場所を選んでた。でもそうではなくて、一度円堂に背中を守られるのではなく、真正面から対抗してみたかった。それはあのDE戦で体験したけど、あのときは己の力に夢中で、円堂と向き合ってなかった。
でも、寂しいといえば寂しい。当たり前だ。この絆が消えてしまうことに、恐れを感じている。俺はどうやってもこの太いパイプは切断できないと思っているけど、円堂はどう思っているのだろうか。…男同士なのに付き合ってる俺たちは、歪な関係だ。だからどこで亀裂が起こるかわからない。あのときの、離脱のときやDE戦のように。
そのとき、突如携帯電話が鳴り出した。ディスプレイを見ると、たった今まで頭の中に存在していた、あいつだった。
「…もしもし、円堂?」
「ごめん、寝てたか?」
「いや、起きてたよ。どうしたんだ?」
「多分かなり驚くと思うけど…下見てくれ」
言われたとおりに見てみた。すると、信じられない光景が広がっていた。
オレンジのバンダナを珍しく外している円堂が、携帯電話を片手にこちらに手を振っている。
俺は急いで、かつ静かに階段を下り、適当なサンダルを履いて外へと出た。門を開けると、円堂のいつもと変わらない笑顔がそこには存在した。なんで、と口にする前に「会いたくなった」と答えを出してくれた。
それから俺たちは、道路の隅っこに居座って、色々と話した。まるでお互いの不安を消し去るように。
「…なあ、覚えてる?」
「うん?何を?」
「1月2日だったよな。元旦の夜、風丸が俺の家泊まって、日付けがなんとなく起きると風丸がベランダに座ってたんだ」
うん、覚えているよ。
あのとき、俺は高校が別になることに物凄い不安を感じていたんだ。なんとなく、外の空気を吸いたくなって、ベランダに座っていた。すると円堂も起きちゃって、隣に座ってきたんだ。
「俺、また風丸が離れちゃうことに、不安を感じたんだ。また、DEのようになるんじゃないかって。でもそれは、風丸も同じだった」
あのとき、円堂はみたこともないくらい不安に包まれた表情をしていた。離脱後、チームに帰ったとき、木野から「円堂くん凄く落ち込んでたのよ」と聞いた。きっとそのときも、こんな風な顔をしていたのだろう。俺は、またこんな顔をさせてしまっているのかと、罪悪感にかられた。でも、円堂はこう言ってくれた。「お前が決めたことだから、俺は応援する」って。
そのとき、俺は円堂とずっと一緒に居たいと思った。それは、きっと円堂のことがたまらなく好きだということを証明していた。
「そんときだよな。俺がお前に告白したの」
真っ赤な顔になって、円堂は俺に「好きだ」と言った。俺も、と言ったら頬をつねって夢かと疑うくらい、驚いていた。それから、今に至る。
「そういえば偶然だけどさあ、あの日って俺の背番号と風丸の背番号を組み合わせた日だな」
「あっ本当だ。じゃあ、1月2日は俺たちの日だな」
「ああ!あっ…でも高校変わると、番号も変わるよな…」
「変わらないよ。いつになるかわからないけど、絶対背番号2になる。約束する」
「…じゃあ俺も、背番号1になる!約束!」
古風に、お互いの小指を絡めた。きっと、この約束は守られるだろう。いつになるかわからないけど、絶対に手に入れてみせる。
そしたらまた、1月2日に逢おう。
円堂は俺の唇に己の唇を重ねた。きっと、これからも、こういう風にキスしていくだろう。
ずっと、ずっと。