俺たちは、大学生になった。

豪炎寺も、鬼道も、ヒロトも、それぞれが大人へと成長していく。…風丸も。
もちろん俺だって例外じゃない。少しずつ背だって伸びてるし、昔に比べて顔つきは大人びてきた。
でも、クリスマスになると必ず思い出すこの感情。…いや、いつでもこの感情を思い出してしまう。大人になりきれてないのは、俺だけなのだろうか。

高校三年生のクリスマス、中学二年生から付き合っていた風丸から「別れよう」たった一言、されど重みのある言葉を伝えられた。
そのときのことは、実を言うとあまり覚えてない。本当に嫌な瞬間こそ、覚えてないものだ。
それでも鮮明に残っている、切なげな風丸の顔。くしゃりと歪んだ、今にも泣きそうな顔。「俺もお前も、きっと他の誰かを好きになる。それは辛いから」そう言って俺の手を離した。
色とりどりのイルミネーションに囲まれ、照らされた風丸の端麗な顔が、淡く、脳内を駆け巡る。

クリスマス、いつも思い出す。

それでも風丸に会いたくなる。だからわざわざ、稲妻町駅前をうろついているのだが、風丸はいない。…当たり前だ、待ち合わせしているわけでもないのに。もしかしたら彼女がいたりするかもしれないのに。もう風丸は俺のこと好きじゃないのかもしれないのに。

「…このまま、終わらせていいのかな」

星が輝く夜空をみあげながら、小さく呟いた。口から白い息が吐き出され、星空へと消えていく。それが儚くて、まるで風丸と俺を表しているようで、たまらなく泣きそうになる。
涙を流さまいと、ずっと夜空を見上げる。すると、少し離れたところで、また白い息が上って行き、消えていった。同じことしてる、と面白おかしく思いながらそちらを見た。そのとき、心臓が硬直した。

「…嘘、だろ」

間違いなかった。いや、忘れるはずがないのだ。この俺が、彼の横顔を。
宿題をしているとぎろりと睨み、「早くしろ」と言ってくる横顔。必死にボールを追いかける真剣な横顔。キスをしたあと、赤くなった顔を逸らして見せる横顔。
どんどんと遠ざかる背中。俺は夢中で追いかけた。手を伸ばしても、人ごみで届かない。人にぶつかっても、夢中で追いかける。追いかける、追いかける。

ついに掴んだ。空色の髪の毛を揺らして、振り向く彼。

「…会いたかった、風丸」

ああ目頭が熱い。きっと俺、涙を流していると思う。でも気にしない。だって目の前にいる君も、

「…俺も」

久しぶりの君とのキスは、涙の味がした。だから君と、「しょっぱいな」と言って笑い合った。

きっとまたクリスマスになったら思い出す。
今度は、涙をぽろぽろと流しながら笑う、この顔。

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