「いやー、もう冬だな」
円堂の呟きは誰もいない夜道に溶けて消えていった。残ったのは白い息のみ。
冬だな、という呟きに対し頷きながら「そうだな」と風丸は小さく返した。稲妻町はまだ雪は降っていないが他の遠い遠い地域ではもう降っているところもあるらしい。同じ日本なのに雪が降っている地域と降ってない地域があるなんて、不思議だと風丸は考える。
それにしても冬というだけで日が落ちるのは早くなる。つい数ヶ月前、この河川敷を通ったときに見た風景と今見てる風景は同じはずなのに、どこか違う。どこか物寂しい感じだ。
はあ、と息を吐く音がしんとした空間に響く。今聞こえる音は2人の息遣いと足音だけ。
ざくざく。はあ。
ざくざく。はあ。
2人が息を吐く度に黒いキャンバスに白が霧のように薄く降りかかる。
「そういやさ、俺たちが付き合って今日で一年だよな」
「…よく覚えてるな。円堂って意外と女々しいんだな」
風丸はそう皮肉たっぷりで言ったが、円堂は「風丸こそ覚えてるくせに」と余裕しゃくしゃくでするりと躱す。ぎくり、と身体を強張らせた。円堂は時に鋭い。
円堂は自分のごつごつとした手を伸ばして風丸の少し小さくて、でも意外とがっしりしている手をしっかりと握った。風丸は驚いて身をびくりと揺らす。
「な、今度遊びに行こうぜ。記念に」
「…そこはデートとか言えよ」
「へへ、良いじゃん。俺ららしくて」
すると、風丸の顔に円堂の顔が近づき、軽く触れ合うだけのキスが唇に落とされる。ちゅ、と小さなリップ音が鼓膜をわずかに震わせる。「してみたかっただけ」にかりといつも通りに笑う円堂、冬なのに頬が赤く染まっているのをマフラーで隠す風丸。
「そういえば風丸、手冷たいな」
「そういうお前は暖かいな。子ども体温だな」
「子ども体温?…あーよく言われるかも」
「まあお前にお似合いだしな」
「おいどういう意味だそれ!」
人一人いない夜道に、いつまでも、いつまでも2人の楽しそうな声が響いた。