静かな空間にひびを入れるように煩わしい着信音が鳴る。布団の中から手を伸ばしてベッドのそばに置いてあった携帯電話を掴んだ。ディスプレイを見ると見慣れた名前が大きく映っている。快眠を邪魔された苛立ちとまるで彼氏から電話がかかってきて嬉しがる女子のような気持ちを携えながらボタンを力強く押し、耳に当てた。

「…もしもし」
「あっもしもし?風丸?」
「…今何時だと思ってるんだ、円堂」
「えーっと…夜中の2時だな!」
「だな!じゃねえよ!」

思わず声を荒げてしまった。すると「あはは」と呑気に笑う円堂の声が鼓膜を震わせた。こんな小さなことで、胸をときめかせる自分が少し気持ち悪い。そんな風に思いながら「で、何の用なんだよ」とぶっきらぼうに言い放つ。こうやって本当は電話がかかってきたことが嬉しいくせにツンツン棘を生やしてしまうのも、自分の悪い癖である。返答に悩む唸り声が聞こえてから程なくして「なんとなく?」と答えた。なんとなくで午前2時に電話をかけていいものだろうか?いいや、だめだろう。と、いうことを円堂に言う。

「えー、風丸ならすぐ出てくれるかなって思って」
「どういうことだよ」
「んー?いや、今日部活でちょっと失敗してたから今頃落ち込んであんまり眠れてないんじゃないかなってさ」

円堂の言葉に一瞬言葉を失った。てっきり円堂は気まぐれで電話してきたのかと思った。もちろんこれは俺の憶測だし、期待しすぎなのかもしれないけれど、

「…心配、してくれたのか?」
「えへへ、大好きな奴だもんな」

電話越しなのにまるで目の前で直接言われているようで、思わず顏を真っ赤に染める。耳も熱を帯びてじんじんして、少しくすぐったい。「ば、ばか!」なんて小言を言うのもただの照れ隠し。円堂はそういうこと全て含めて既にわかっているらしく「へへー」と幸せそうな声が聞こえてきた。きっと電話の向こうで満面の笑みを浮かべているんだな、と思うと俺も自然と笑み…いや、にやけてしまった。普通の恋じゃないけれど、十分幸せだ。余るくらい。

しばらく他愛もない会話を交わして電話を切った。寝る前のもやもやした気持ちは土砂降りの雨が晴れたような晴れやかで穏やかな気持ちになっていた。携帯電話を元に戻して枕に頭を寝かせる。瞼をそっと閉じると、円堂の笑顔が浮かんだ。

電話越しに聞いた声が、いつまでも頭の中で反響していた。
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