大学生になってからやけに忙しく感じる。レポート、講義、バイト、友人と遊ぶ機会もめっきり減ってしまったように思える。今頃円堂はどうしているのだろうか。一応大学は一緒のところへ進んだけれど学部が違うため中々会う機会もない。サークルは同じではあるが、運がないのかあまり会えていない。
寂しいとは思う。でもそんなものかな、と思ってしまうのは冷たいのだろうか。恋人であるにもかかわらず。
「あっ風丸!珍しいね、学内で会えるなんて」
大きな黒い目を輝かせてこちらに駆け寄ってきたのは緑川だ。中学生のときポニーテールに結っていた髪の毛は今は団子にされている。余談だが、そんな髪型の上中性的な顔つきなのでヒロトと並ぶとよく彼女と間違えられるらしい。
「ほんと珍しいな。そもそもお前っていつもこの時間いなくないか?」
「き、今日はたまたまだよ!あははは…」
怪しい笑顔を浮かべるので訝しげに見ると慌てて話題転換をされてしまった。
「そういえばさ、今日風丸ってバイトあるの?」
「あるけど」
「何時に帰ってくるの?」
「多分夜の9時くらい…ってそんなこと知ってどうする?」
そう言うと緑川は焦った様子で俺にお礼を言うとさっさと逃げてしまった。何を企んでいるのやら。そう思いながらもあまり気に留めず止めていた足を再び動かし始めた。
バイトを終え、緑川に言った通り夜の9時ぐらいに住んでいるマンションに着いた。日課であるポストの中身を確認するという動作を終え、自分の部屋へと向かう。鍵を開ける前に、ふと思い出した。今日は、俺の誕生日だった。自分でも忘れてるくらいだからきっと円堂やみんなも忘れているだろう。緑川も何も言って来なかったし。
時間というものを虚しく思いながら鍵を開けた。そして扉を開くと、予想だにしないものが目の前に飛び込んできた。
「風丸!おかえり!お誕生日おめでとう!」
「なっ…円堂!?どうしてここに」
そこには昔から変わらない笑顔を浮かべる円堂が居た。確かに前に合鍵を渡したから別に不自然なことではないが…。
円堂は俺に歩み寄り、優しく抱きしめた。さっきからわからないことが多すぎる。急なことに思考回路が追いつかない。ぐるぐると頭を回転させていると円堂が小さな声でぽつりぽつりと話し始めた。
「ごめん、最近会えなくて」
「別に…お互い忙しいから仕方ないだろ」
「違う、忙しいことを口実にしてたんだ。なんだかどんどん大人になっていって、会えない日も多くなって、これからどうするのかなって、そう思ったら不安になって…」
震えた声が鼓膜を揺らす。「馬鹿だな」って俺は溜息まじりに言った。「そうだな」って円堂は頷いた。抱きしめる力が少し強くなる。しばらく沈黙が続くと円堂は静かに俺から離れ、ポケットに手を突っ込んだ。
「これは俺の願望ではあるんだけど…誕生日プレゼント」
手から取り出したものはサッカーボールのキーホルダーがついた鍵だった。そういえば俺は円堂の家の合鍵を貰ってない。と、いうことは。
「風丸、俺と同棲してください」
「えんど…」
「受け取って、くれますか?」
俺は堅い笑顔を浮かべる円堂に笑いかけて鍵を受け取った。「…はい」その瞬間奥のリビングから一斉に見知った顔たちが飛び出して来てクラッカーを鳴らし『おめでとー!』と声を合わせて言った。俺は驚いて思わず鍵を落としそうになった。全く予想していなかった。…というか
「今の会話…全部聞いて」
「ああ、聞いていた」
そう豪炎寺が頷いた。続いて鬼道や壁山も頷いた。顔が徐々に熱帯びていくのがわかる。
「お…まえらー!!」
大学生になって、なんだか絆が薄れたように感じていた。でも、こいつらとの絆は切っても切れないらしい。