あゝ其方は美しい
Endo × Kazemaru♀
あれから俺たちは何度かこっそりと密会を重ねていた。することといえば、ただひたすら昔話や最近起こった笑い話などを話すだけ。それでも楽しかった。いや、楽しすぎた。自分でもわかるくらい泥沼へと嵌っていってしまったんだ。
そのとき俺は知らなかった。楽しい夢は、いつか覚めてしまうことを。
俺はいつもの時間にいつもの場所に居た。この時間、この場所がいちとの待ち合わせだった。いちはいつも少し遅めに来てた。走りづらそうな袴を履いているのに息を切らせて走って、その姿がとても愛おしい。だけど、今日は長く待っても来ない。もしかしたら風邪をひいているのかもしれない。そしたら来れないのも当たり前だ。でも、もしかしたら。来るかもしれない。そんな期待を持って待っても、その日は現れなかった。落胆はしたけれど、仕方ないと自分に言い聞かせてその日は素直に帰った。
次の日もいちは来なかった。何時間待っても来なかった。やっぱり風邪をひいているのかもしれない。そんな日が約1週間続いた。よく鈍感と言われる俺でもさすがに変だと疑った。俺は意を決していちの屋敷へ向かった。場所は知らない、でも方角だけ教えてもらったのだ。
待ち合わせの場所から少し歩くと、大きい屋敷のてっぺんが少しだけ見えた。まだ少し距離はあるのにてっぺんが見えるってことは、余程大きいのだろう。俺は唾を飲み込んで勇み進む。
「…でけえ」
思わず呟いてしまうほどの大きさだった。まるで外国のお屋敷みたいだ。一般人の俺には敷地内に入ることすら不可能そうなほどに豪勢なつくりだった。
俺は少しだけまわりを歩いてみることにした。たまたま窓から見えるかもしれないし、庭を散歩しているかもしれない。すると、本当にたまたま、奇跡にもいちは柵の向こうの庭に置いてある洋風な椅子に腰掛けていた。俺は急いで名前を呼んだ。するといちはとても驚いた様子でこちらに振り向いて走って来た。ふわふわと揺れる空を切り取ったような髪の毛がやけに懐かしく感じた。
「守、なんでここに…」
「心配で来たんだ。なんで最近…」
「…お父様に守と会っていることがばれた」
いちは泣きそうな顔で柵を握った。それっていけないことなのだろうか。それを言うと「お前は令嬢なのだから一般人と関わってはいけない」とお父様やらに言われてしまったことを打ち明けた。俺は静かに拳を強く握った。たとえ血が繋がった肉親であってもいちを悲しませることは許せない。
いちは涙を一粒流したあと、震える口を開いた。このあと俺は絶望を味わうことになる。
「その罰として、…結婚することになった」