家族になろうよ
「甥御さんでしたか!」
「そう。話はしてたでしょ?一緒に暮らすことになったんだよ」
いきなり入ってきた人はどうやら昆奈門さん…(呼びづらいな。心の中では慣れるまで雑渡さんでいいや)雑渡さんの仕事関係の人らしい。雑渡さんよりも少し年上だろうか?落ち着いた雰囲気を持った人だ。スーツをピシャリと着こなし、いかにも仕事が出来そうな男性である。カッコイイなぁ
暢気に相手の身形を語っているが、実際は叔父さんの座っているソファの隅から覗く形だったりする。べっ別に怖がってるわけじゃないんだからね!
「……………。」
「……………。」
ずっとその人のことを見つめていたら笑いかけられた。笑った顔はとても優しい。
「こんにちは、突然来て驚かせてしまったかな?私は部長…叔父さんの部下で山本陣内と言います。」
「あ…名字、名前です…よっよろしく、お願いします…」
「名前君か、よろしくね」
また、笑いかけられる。その笑顔にすごくホッとして雑渡さんの横に座ると雑渡さんに頭を撫でられた。嬉しい
二人はそれから仕事の話をしているようだったが専門的な話なのか俺には全く解らない。手持ちぶさたになっていた俺を見兼ねたのか山本さんが俺に話しかけてきた。
「名前君は何年生なのかな?うちの上の方の子とかわらないくらいだと思うんだけど」
山本さん家は子沢山らしい。凄い。
「小学3年生です…ぁ、」
「? どうしたの?」
確かここは俺が通っていた小学校と学区が違ったような気がするんだが夏休みが明けたらどうするんだろうか。
雑渡さんを見ると首を傾げて俺の両脇に手をいれてきた。あ、また膝に乗せられる。しかし、山本さんがいる前では流石に恥ずかしい。
「こ、昆奈門さん!!」
「昆奈門さん!!?」
「なぁに名前、陣内の前じゃ恥ずかしい?可愛いなぁもー」
俺の抵抗も空しく、膝の上に載せられてギュウギュウされた。山本さんの何か言いたげな視線をひしひしと感じる。
「(…とても仲の良い叔父と甥の姿に見えない…!)…名前君、その呼び方は?」
「呼び方…こ、昆奈門さんですか?あの、他人行儀だからそう呼べって…」
チラリと雑渡さんを伺う。ニコニコしていた。やたら、近い。雑渡さんの頬と俺の頬をすりすりされる。包帯の感触がした。
その後、なんだか必死な山本さんの説得で叔父さん・雑渡さん呼びが確定した。正直なところ、慣れなかったから助かった。
「それで名前、何を言おうとしてたの?」
「その、俺…転校するんですか?」
「? 転校したいの?」
「もしかして、学区が違うのかな?」
山本さんの問いにコクリと頷く。
「そっか。じゃあ色々手続きしなきゃね」
「えーホームスクーリング(在宅教育)てのじゃダメなの?」
「貴方は日中仕事でいないでしょうが…まだ無理そうなんですか?」
「んー…大丈夫だとは思うんだけどね…」
雑渡さんの大きな手がポンッと頭にのせられる
「名前、新しい学校に行ける?」
……気を、遣われているのがわかった。一緒に暮らしているのに"家族"にはなれていない。違う、俺の家族は父さんと母さんだけで、でももういなくて。どうしたら…どうしたら俺も叔父さんも"独り"ではなくなるんだろうか。
「……俺、大丈夫です新しい、学校に行けます。」
「…………そっか。」
「……………。」
俺がもっと、何でも出来るようになったらこの人に近付けるだろうか。
***
仲の良い叔父と甥に見えない原因は雑渡さんの見た目6割、雑渡さんの不純な気持ち3割、叔父との距離感は測りかねている甥に1割、です
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