一緒に暮らそう


「母さんの弟ってどんな人?」

「んー変なヤツよ」

「変なの?」

「ある日突然クソオヤ…お祖父ちゃんが連れて来たの!『これ、今日からお前の弟な』て!!笑っちゃうでしょ?それから色々構ってたんだけど、とうとう懐いてくれなかったわぁ」

「お母さんそんな犬猫みたいに…」

「犬猫の方が可愛いわよー!」

「弟っていきなり連れて来られるの?」

「あら、名前は弟が欲しいの?お母さん今度は女の子がいいなぁ。お父さんは?」

「どちらでもいいさ。どちらもきっと可愛いからね」


将来、俺には弟か妹が出来ていたのかもしれない。今となってはわからないが。

雑渡さんと暮らすことになった。といっても未だ実感がないままだったりする。雑渡さんの家はなんか変な形したマンションで、俺の家とちょっと距離がある場所にあった。俺は退院してから母さん達のお葬式があるまでここで生活していたはずなんだがあまり記憶にはない。ただ、黒で統一された家具は見覚えがあるし風呂場やトイレの場所は自然と足が進むので確かにお邪魔していたんだろう。
俺の元の家はそのままにしてある。雑渡さんが「もう少し落ち着いてから2人で片付けようね」と言ったからだ。正直、今はまだどうする気にもなれてないので彼の提案は有難かった。一度だけ、俺の要る物だけ取りに行ったのだがどこもかしこも母さんと父さんとの思い出がちらついてそれどころじゃなかった。もしかしたら、ここで待っていたら2人は帰ってくるんじゃないか、なんて。

雑渡さんの家のリビングにある黒いソファの端に体育座りになりソファと同じ黒のクッションを抱える。冷房が効き過ぎているのだろうか、やけに寒く感じる。


「名前?」


キッチンにいた雑渡さんに呼ばれ慌ててキッチンにいく。


「な、なに?」

「お昼、何がいいかな。まだまだ暑いし冷たいものがいい?」

雑渡さんは意外にも料理上手だった。生活感ないのに。

「なんでもいいです。雑渡さんが作るの、なっなんでも美味しいから」

「うーん…」

俺を見ながら唸る雑渡さん。

「あのさ、名前」

「……?」

「あぁ…うーん、後でいっか。素麺でいい?夜には凝ったの、作ってあげる。有難うね」

「はい……」


何か俺はやってしまったんだろうか。

素麺を食べ終わると皿を流しに置いて洗う。こういう時、母さんの手伝いをしていて良かったと思う。雑渡さんの負担になるべくならないようにしたいから。皿を洗い終わり、リビングに戻るとソファに座り寛いでいた雑渡さんに手招きをされた。そのまま近寄ると膝の上に座らされる。
雑渡さんは俺に大事な話がある時、こうやって俺を自身の膝の上に乗せる。それを知っているから俺は少し緊張した。雑渡さんの膝の上で見つめ合う。雑渡さんの眼は奥の奥まで真っ黒でたまにそれが凄く怖く感じる。


「名前」

「………はい」

「その呼び方どうにかならない?」

「……え?」

「雑渡さん、てのもなかなかそれはそれでいいんだけど…一緒に住んでるんだし。もう少し他人行儀じゃない方がいいな」


言いながら俺の頭を優しく撫でてくれる。その手の感触に少し緊張が解れた。なんだ、そんなことだったんだ。
俺は一生懸命他人行儀じゃない呼び方を考えたけどなかなか思いつかなくて。


「…叔父さん」

「一応まだおじさんって年じゃないつもりだから却下ネ」


なんかネガティブに捉えられた。わざとかもしれない。
一番無難な呼び方は早々に却下された。雑渡さんも叔父さんもダメならなんて呼べばいいんだ。悩んでいる傍から雑渡さんの視線を感じる。きっと、いや絶対、期待されている。どうしよう。もう要望を聞いた方が早い気がしてきた。


「……あの雑――ピンポーン ガンガンガンッ


勇気を出して聞いてみようとしたらチャイムと共にドアを叩く音がして身体がビクッとなった。その後も止めどなくチャイムが鳴って、ドアを叩く音がしているが雑渡さんが動く様子はない。


「でっ出なくていいんですか」

「うん、大丈夫。だいたい予想ついてる相手だから」

「?」

知り合いなら余計出なければいけないんじゃないだろうか。

「そんなことより名前、昆奈門さんって呼んで。」


まさかの名前呼び。さっきよりも雑渡さんの眼は期待で輝いて見えた。微妙にだが。
ドアはまだ叩かれていて時々、よく聴き取れないが声が聴こえる。
誰なんだろう、気になる。


「……こ、昆奈門さん」

「……名前」

「げ、玄関…気になります」

「うーん敬語もどうにかならないかなぁ」


要望が追加された!唯でさえ名前呼びもなんだか恥ずかしいのに!


「こ「部長ーーー!!!!!!」…っ!」


困惑しつつもそれは無理だ、と伝えようとしたらまた遮られた。怒鳴った声は玄関からで先ほどの声よりも鮮明に聞こえた。玄関は鍵が閉まっていたはずなのだが。
ドスドスとこちらに近づいてくる足音に自然と手に力が入って、雑渡さんの着ている黒いVネックシャツの胸辺りをクシャリと掴んでしまった。
雑渡さんは俺の行動に応えるように俺の背中をポンポンとたたいてくれた。


「今日という今日はちゃんと出社して頂かないと部下に示しがつ…か……」


リビングに入ってきた男の人は視界に俺達を捉えると、「少年…誘拐……」と言って青ざめた。
誘拐って…もしかしなくても俺のことだろうか?



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