愛されない子なんていない


それから暫く何事もなく名前は過ごし、留三郎を通してようやくクラスメートとも打ち解けることが出来た。
横田は面白くなさそうでたまにちょっかいをかけてくるが留三郎の存在が大きいのか前に比べると可愛らしいものだった。ただ、「女に守られやがって」と言う一言はまだ小学生でも男の子の名前には効いたようで出会った当初より留三郎の影に隠れなくなった。(いや、元々名前は隠れてるつもりはなかったが留三郎といると自然と後ろに追いやられていたのだ)
仙蔵にもことある事に情けない、シャキッとしろ、直ぐに泣くな、と言われていたのでそのたびに努力した。結局は仙蔵にズケズケと欠点を突きつけられ半べそになってしまっていたが。


+++


名前がここに来てから三年がたった。早いもので彼ももう六年生である。雑渡はここ数年での甥の変化に目を細めた。好奇心が強くて人懐っこい、笑顔がへにゃりと可愛らしく、ちょっとヘタレで他人の感情の浮き沈みに敏感な本来の名前。両親を思う時以外は、以前と変わらないくらいに回復したように思えた。
春先には、「また留ちゃんと同じクラスで、今度は仙ちゃんとも一緒なんです…!」と子供らしく頬を桃色にしながら言っていた。成長期がまだ来ないことに本人は気にしているようだが、雑渡は名前の心の回復や成長が何より嬉しかった。
だから、このまま何事もなくただ甥の成長を見守れると思ってたのだ。






「お前、親がいないんだろ?」


横田の一言は休み時間を騒がしく過ごす教室を静かにするには十分だった。
自分に話しかけてきたことにも驚いたが、内容にも驚いた。
何故、横田がそんなことを知っているのだろうか?
いや、親や先生から漏れ聞いたのだろう。もうあまり気にしなくなったがよく知らないクラスメートの母親や近所のおばちゃんから「大変ねぇ」なんて声をかけられることなんてしょっちゅうなのだ。
よく言われる「大変」の意味を自分はよく理解できずにいるのだが。


「通りでって思ったよ。だってお前、オカシイもんな?」

ニヤニヤと笑いながら横田は話続ける。

「転校してきた時は頭怪我してるしよ、事故だったんだって?母さんが言ってたよ。すげぇでかい事故だったって。トラックが突っ込んできて、車はぺちゃんこ。お前一人生きてたことが不思議なくらいなんだって」

「………。」


正確には母も病院について暫くは息があったのだが、そんなことを横田に話すつもりはなかった。
母さんの最期を思い出して息が詰まった。
あまり反応を見せない俺に苛立ったのか横田に胸ぐらを掴まれる。


「なぁ なんでお前生きてんの?」


クラス中が息をのむのがわかった。少し引きながらも興味津々で、聞き耳をたてているのだ。
留ちゃんと仙ちゃんは何処かに行っているのだろうか姿が見えない。
そのことにホッとした。


「親戚なんだってな、あの気味悪ぃ包帯のおっさん。」

「お前がオカシイのは親ナシなのとあのおっさんのせいなのかもな。愛されないで育ったヤツはロクなオトナにならないんだって。しょうがねぇよなぁ!誰からも愛されないんだから!」


横田は何だか心底嬉しそうだ。
突き飛ばすように放されたが、掴まれてたシャツはくっきりと握られてた分伸びていた。


「今までちょっかいかけてて悪かったな、可哀想な名前クン。」


ふん、と鼻を鳴らして横田は俺に背を向けた。

横田が何を思って謝ってきたのか、どうして自分が可哀想と言われたのか、そもそも何故こんな話をしてきたのか全くわからないことばかりだが、

自分はオカシイらしいこと
誰からも愛されないということ
雑渡さんの悪口を言われたこと

それらが頭に酷く残って、同時に胸の真ん中らへんがギュッとカチカチに冷えきってそれが何故なのかもわからなかったから、
一番に感じたのは怒りだった。確かに否定できてお腹の底から腹がたった雑渡さんの悪口がどうしても許せなくて、


「雑渡さんは気味悪くなんてない…!!!!!」


俺はこの日初めて横田に反撃した。



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