友の心友知らず


世間では逆チョコが流行っているらしく、某女子から笑顔で圧力をかけられている。この時期にスーパーでチョコを買うとかそれなんて苦行だろうか。レジのおばちゃんの生暖かい視線が辛い。「あら、この子好きな子がいるのかしら？いいわねぇ若いって。私が若かった時も…」なんて考えてるのが手に取るようにわかる。おばちゃん、違うんです彼女は俺が困っている姿が好きなだけなんですきっと。



家に着いてからは特に問題はなかった。多めに買ったので色々作ってみる。ガトーショコラなんて定番だろうしトリュフはナッツを入れたり、ココアパウダーを使ったり抹茶を使ったりアレンジがきく。余った分でブラウニーなんかも作れそうだ！
段々楽しくなってきていた俺を「私の分も宜しくね」なんて言って見ていた叔父なんて俺は知らない。あんたはどうせ今年も大量だ。顔が口元しか見えてないのにモテるってどういうことなんだろう。


２月１４日当日。
男達はいつもより早く目覚め、いつもより身支度に時間をかける。諦念とほんの少しの期待を胸に戦場へと赴くのだ。靴箱や机にいちいちドキドキし、普段は飲まないいちごオーレなんて飲んでさりげなく「俺、甘いもの平気だぜ！大好きだぜ！」なんて主張しておく。
しかし、結局最後に笑うのはイケメンばかりなんだ。男はハートで勝負させて下さいお願いします

今年は流行りにのって逆チョコに精を出してみたので早速、あの人に渡しに行こうと思います。


+++


「仙ちゃん」

「遅いぞ名前」

「いやいや机の上にチョコの山出来てる人が何を言うの？まだいるの？」

「そうだな…これを全てお前にやったらお前ごとお前の本命チョコが私に貰えるならくれてやっても」

「はい仙ちゃん、友チョコだよ！いつも有り難う!!」

「チッつまらん」

「舌打ちしないでよ。ちゃんと要望通り手作りなんだから」

「………そうか」

「これから配ってくるとこーあ、これ文次郎に渡しといてもら」

バコンッ

「さっさと行ってしまえ！」

「痛い…て、えっチョコ？仙ちゃんからチョコ!?うわー有り難う!!」

「ふん…」


女王様は義理堅いらしい


+++


「あ、ハチだ。ハチー」

「…ぇあっ名前先パイ！いい嫌だなー犬みたいによ、呼ばないで下さいよっ」


いつになく挙動不審なハチ
手は後ろに回され、なんかもぞもぞしている
あ〜ぁ…なんだ、火男ドンマイｯ！教室の片隅でﾌﾞﾂﾌﾞﾂ言っていた友人に合掌


「はいこれ、ハチに」

「え！名前先パイ…俺に？」

「ハチいつも頑張ってるからな。甘いもの食べて疲れとれよ？因みに俺の手作りだ！」

「てっ手作り…っ!」

「じゃあハチも頑張れよー」

「えっ…いや違うんです名前先パイ!」

「ん？」

「あの、これ…名前先パイにで…!その…」


真っ赤っかな顔でラッピングされた箱を差し出された。強く握られていたせいで藍色の包装紙と銀色のリボンがよたついてしまっている。
許せ、火男。
可愛い素敵な後輩をもって俺は幸福者だ


「有り難うハチ！大事に食べるよ!!」

わしゃわしゃと彼女のパサついた髪を撫でる

「…はいっ！先パイも有り難うございます!俺、スゲー嬉しいですっ」


可愛らしい笑顔でお礼を言われて、堪らなくなり俺はハチを抱きしめた
何この子ちょー可愛い


+++


「名前く〜ん」


前方から駆け寄ってくる金髪ギャルに俺はくるりと背中を向け、もと着た道をはや歩きで戻る。


「さようなら」

「ちょっと〜それは酷くない？」


しかし、直ぐに捕まった。


「女の子には優しくしなきゃ、だよー？」

「俺は俺に優しくない人に優しく出来るほど人間できてないんでねーすいませんねー」


ニコニコ笑う斉藤。
逃げないように掴む手に力が入った。しかし、それは直ぐに消え代わりになのか強制的に腕を組まれる。肘にあたる感触に気をとられるが落ち着け、これはわざとだ。と自分を戒める。


「じゃあこれあげる！」

豪華にラッピングされたチョコだと思われる箱

「海外では一般的に男性が女性に花やカードを贈るんだけど名前君くれなさそうだからさ〜」

「おい、それ恋人同士の話だろ斉藤」

「タカ丸って呼んでって言ってるよね？」

「まぁ一応用意はしてる」


名前呼びの件はスルーして用意していた一個を斉藤に手渡す。斉藤はきょとんとした顔をしていた。ふふっ予想してなかっただろ、と俺は少しどや顔になっていることだろう


「Happy Valentine!義理チョコだ、斉と」

「名前く〜ん!!」


ガシッ！！


俺の首に腕を回して顔を寄せてきた斉藤の頭を咄嗟に掴む。危なかった…二度目の事故チューはゴメンだ


「ちょっと、なんで拒むの？」

「義理チョコだっつってんだろ斉藤さん」

「むぅ素直じゃないなー」


まぁ今はそれでもいっかーふふふー、と正面から抱きついてくる斉藤。離れて下さい

この後、小平太に見つかり貰ったチョコを全て没収と言われ食われたのは別の話である。


(俺のチョコ…)
(チョコを食べた私を食べるか名前？)
(いや食べないから)
(ぶー)


***
オチがお粗末で申し訳ない



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