ワンダーランド!2



ずーっと森を走っていると漸く開けた場所に出て、ティータイムを楽しんでいる人がいた。
大きなシルクハットには極彩色の鳥の羽根がついており個性的だ。服装も細身のスーツに懐中時計やネクタイピン、カフスボタンにストールなど小物がごちゃごちゃついていて非常にユニークである。しかし、似合っている所が彼女らしいというかなんというか

「おーい!帽子屋!」

「ん〜?あっチェシャ猫じゃないか!それにアリス!ようこそお茶会へ!何飲む?」

兵助はこの友人まで自分をアリスと呼ぶことにちょっとショックだった。

「勘ちゃんッ!名前お兄様が結婚させられそうなのだ!一緒に来て阻止して欲しいのだ!!」

「女王陛下に逆らうの?止めといた方がいいよーそれに、どーせ結婚なんて事態にはならないって!」

「何故そう言い切れるんだ?」

「だってチェシャ猫、あの気位の高ーい女王陛下が自分からプロポーズなんてすると思う?」

「いーや! しないな」

「だろ?どうにか相手がするように仕向けると思うんだ。けど相手はアリスのお兄様!そう簡単にはいかないだろうさ」

「確かに…お兄様はかなりの鈍感なのだ」

「じゃあ今すぐ飛び込んで行かなきゃいけない程の危機でもないのか?」

「まぁ焦れた女王が不敬罪で首はねるか、夜這いして既成事実つくるのかは俺にも読めないけどー」

「「どっちもヤバイじゃねーか(のだ)!!!」」

勘右衛門はケラケラと腹を抱えて笑った。

+++

妹が「雷蔵」と呼んだ兎さんに抱えられている道中は彼女とのお喋りが主だった。と言っても途中までは返事のない相手に「力持ちだね」とか「重くない?俺も走ろうか?」とか「髪の毛ふわふわだねぇ撫でてもいい?」とか「兎さん可愛いねぇ特に耳とか」など一方的に喋っていただけなのだが。いつの間にか仲良くなっていた。
目的地らしい場所…ファンシーな見た目のお城についた途端、お城の主だろう人が直々に迎えにきた。
兎さんにおかえりを言い、疲れてないか怪我してないか、お茶は軽食はと甲斐甲斐しく世話をした後、漸く俺と目があった。
顔を兎さんと瓜二つで違うのは醸し出す雰囲気と服装だけだ。山吹色のふわふわした髪はこちらの方が艶やかな印象を受ける。頭の上には王冠を手には杖?を持ち、華奢な身体には重いんじゃないかと心配になるくらい豪奢なマントを羽織っている。しかし、着ているドレスは刺繍などは凝っているがシンプルで上質な物を使っていると一目でわかる。トータルコーディネートか、と納得した。
ここまで思考を巡らせて漸く初対面の女性を(しかも明らかにこの場所の最高位にいるだろう相手を)不躾にじろじろ見てしまったことに気づく。
慌てて女性の手をとり、挨拶をする。

「初めまして女王陛下、名前と申します。アリスの兄で……えーと、貴方にお会いできて光栄です。以後、お見知りおきを。」

相手の手の甲に軽くキスをしてからなんで俺こんなキザッたらしいことしてんだキャラじゃない!恥ずかしい!!、と思ったが次の瞬間にはハテナが浮かぶ。挨拶でキスくらい日常茶飯事ではないか

「……………あ、あぁ ゆゆっくりしていくといい」
何故か女王は自分の衣装の様に真っ赤だった。

「有難うございます」

女王陛下に許可も貰えたことだし下手に動かず、ここでアリスを待たせてもらおう。
名前の隣で終始見守っていたらしい雷蔵が一人頷きながらニコニコ笑っていた。

「名前! お茶の用意をした…つつ付き合え!!」
「名前、何か欲しい物はないか?」
「アリスが来るまで城内を私直々に案内しようか?名前の部屋も作ってやらないこともないぞ!」
「名前、クリケットはどうだ?私に勝てたら褒美をやるぞ!」

甲斐甲斐しく世話を焼こうとしてくれる女王に名前は嬉しそうに微笑み感謝を述べますが、誘いにはなかなか乗ろうとはしません。内心舌打ちをし、それだけでは済まずトランプ兵の何人かが腹いせの餌食になりました。

「(ここまでわかりやすく好意を見せているというのに何故気づかない!?)」

ハンカチを噛み恨めしく名前を見る女王陛下

「はぁ…ねぇ兎さん、アリスは本当にここに向かって来てるの?遅くないかな…迷ってるかもしれないし探しに行かない?」

「大丈夫、ちゃんと向かってきてるさ!あまり過保護なお兄様だと疎まれてしまうかもよ?」

「疎まれ…アリスももうそんな年なのか!だからここに来るまで様子が可笑しかったのかな」

「新しく友達が出来て遊んでいるのかも!そこに身内が登場ってちょっと野暮じゃない?」

「確かに…そうだね。私も妹離れしなきゃいけない頃合いなのかな」

ニコニコと笑いあう時計兎と名前。
しかし、穏やかなのは見た目だけで時計兎と女王の間では目配せがされていた。

「(ナイスアシスト!)それでは名前、お茶をした後は本を読んだらどうだ?ここは蔵書も豊富だぞ」

「有難う、そうさせてもらおうかな」

「(気持ちは後からでいい!まずはここに留めなくては!紅茶や茶菓子に薬を入れて眠らせ、その後は…)」

女王は少し顔を赤らめにやついた。
出された紅茶や茶菓子を何の疑いもなく食し、暫く談笑しているとだんだん名前の瞼が下がり眠ってしまった。女王の口はだらしなくにやつく。
早く自室に移動させなくてはと行動しようとしたその時、

「名前お兄ぃい様ぁあああ!!!!!!」

スカートなのを気にせず全速力でアリスが走ってきた。チェシャ猫と帽子屋も一緒である。






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