ワンダーランド!1



ふと気が付くと兵助は広い洋風の庭にいた。近くには大きな洋館があり、自分は品のいい青いエプロンドレスを着ている。髪もいつものように耳の横に二つ結っているのではなく、降ろしていてカチューシャをしていた。
いきなり起きたあり得ない状況に首を傾げる。まぁ普通に考えてこれはゆ

「アリス、随分と探した。そんな所で何をしてるの?」

思考を遮るように声がかかった。兵助は即座に声の方を向く。
そこには貴族のお坊っちゃまのようにドレスシャツに長ズボン、サスペンダーを身につけた名前がいた。

「名前先輩!」

「名前先輩?いきなり可笑しなことを言うなぁ俺の妹は」

「妹…!!?」

何がどうして自分がそんな悲しい位置に。

「おいでアリス、部屋が嫌なら庭の木の下で本を読んでやろう」

「違います先輩、アリスじゃありません。兵助と呼んでくれてたじゃないですか」

「まったく、今度は何の遊びだい?いきなり始められてもわからないよ。それよりほら、兄さんの膝においで」

「はい」

色々言いたいことはあったが兵助は目の前の誘惑に負けた。
向かい合うように名前の膝に乗ると自然と首に腕を絡ませ顔を近づける。

「……アリス、本当にどうしたんだ。頭でも打った?これでは本が読めないよ」

「本よりお兄様とイイコトがしたry「あーーー!!あれはなんだ!?」……」

なんだかわからないが身の危険を感じた名前は少々強引だが妹の気をそらすため庭の適当な場所を指差した。その先には、

「大変!遅れちゃう!!急がなきゃ…!」

ウサミミの生えた可愛らしい女の子がいました。
ふわふわな山吹色の髪が風になびかせてかなりのスピードで走っています。

「お兄様……」

しかし、兵助は妹プレイに幸悦した表情で名前の首もとに顔を寄せるばかり。

「きっ気になるなぁ!あの兎さんがどうしてあんなに急いでいるのか気にならないかいアリス!?」

「お兄様、ウサミミが好きなら私がしますから。それと兵助です」

「ちちち違うよ!!純粋に興味があるの!あっ見失っちゃう…!行こうアリス!!」

名前は渋っている妹を無理矢理立たせると手を繋いで兎の後を追いかけました。兵助は名前と繋がれた手を見て頬を薔薇色に染めていました。

「兎さん待って…!うわっちょ!あぁぁ…!!!」

「……!」

突然現れた兎の穴に踏み止まった名前でしたが、後ろから前を見てなかった妹にぶつかられ、その弾みで二人一緒に穴へ落ちてしまいました。
下へ落ちるうちにどんどんゆっくり落ちていき、その間に色んな物が二人を過ぎていきましたが後ろから妹にへばりつかれた名前はそれどころではありませんでした。ベッドが過ぎていった時は何とか乗ろうとする妹に必死で抵抗しましたが。
暫くしてやっと地面に辿り着いた時にはすっかり疲弊しきっていました。勿論、アリスは元気でした。

少し歩いた先に先程いた兎さんがいましたが、腕を組み、何やらブツブツと独り言を言っています。

「どうしよう…アリスだけのつもりだったのになぁでも二人の方がお得かも。でも女王様が気に入るかどうかうう〜ん」

「随分と悩んでるね」

「いつものことですよ。雷蔵が寝ちゃう前に話しかけなきゃ…あ、先輩!扉が」

「よし!やっぱり先に彼だけ連れていって女王様にお見せしよう!!」

「!? うわ、」

兵助が名前と少し離れた時を見計らったかのようなタイミングで兎さんこと雷蔵は名前を掴まえて走り出してしまい、とうとう姿が見えなくなってしまった。

「……追いかけなきゃ」

兵助も兄を取り戻すために二人を追いかけます。

+++

時計兎っぽい雷蔵を追いかけていると森の中で分かれ道にさしかかり、足を止める。
既に雷蔵は名前お兄様を拉致して去った後だ。どの道を通ればまた愛しのお兄様に会えるのか

「困ってるみたいだな!アリス!」

「雷蔵が時計兎なら……マズイ、早くお兄様を助けなきゃ」

「だーからっ困ってるなら俺の話聞けって!アリス!!」

「頭の上から五月蝿いのだ八左ヱ門。用件があるなら早く言え
後、アリスじゃなくて兵助」

「気付いてたんならそれなりの反応しろよ!」

木ノ上から身軽に降りてきたチェシャ猫の姿を見て兵助は舌打ちしたくなった。
可愛らしい猫耳にダボッと着たボーダーのニットカーデの肩から覗くタンクトップ、隠しきれない胸の存在感に普段は恥ずかしがって見せないはずの肉付きのいい脚までショートパンツから惜しみ無く出されている。ご丁寧に尻尾までちゃんとある

「名前お兄様が好きそうだから会わないで欲しいのだ」

「? 愛猫家なのか?それじゃあますます急がなきゃな!お前の兄さん、女王と結婚させられそうだぞ!」

「首をはねられるんじゃないのか!?」

「いつもならそうなんだがなんか女王が気に入っちゃってさー時計兎もなついてるみたいだし」

「結婚なんて認めない!八左ヱ門早く女王の所へ案内するのだ!!」

「いいけど…真っ向から行ったって相手にされねぇぞ?女王は頭回るからな」

「あぁもう、誰か予想ついたよ…」

「とりあえずお茶でも飲んで落ち着いたらどうだ?案内するぜ!」

「今はそんなバヤイでは…」

兵助はまだ会ってない友人を思い浮かべた。
あの子がいたら対抗出来るかもしれない

「八左ヱ門!超特急で案内するのだ!!」

「了解だぜアリス!」

チェシャ猫は快活に笑って案内すべく走り出したのだった。






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