ハロウィンパーティーをしよう!2



俺は皆の気合の入った仮装を見て自分の仮装の物足りなさを感じた。部屋に黒いマントみたいなのがなかったかなぁ、と思い、リビングを斉藤達に任せ自室に一旦戻ると、


―ガチャ


「……………。」


バタン―


どうしようツッコミが追いつかない


「名前……」

「ぎぃやぁぁあああ!!!!」

部屋の状況に動揺している時に名前を呼ばれて振り返ると後ろには貞○さんがいる怖さ。ヘタレは間違いなく腰を抜かします

「…………。」

「ひぃ…っ」

すると○子さんは俺に馬乗りになり長い髪から覗く瞳をギラギラとさせ俺に白い手を伸ばしてくる。

「すいませんすいません何でもしますから殺すのは勘弁っていうかっ!やめてーカボチャ頭取ろうとしないで!!取っても何もないから!ぎゃぁあひっふく…!服も取らないで!掴まないで!」

学ランをひん剥かれた
もはやパニックである。喰われる怖い

「名前…」

「っ!ちょ、長次ぃ…!」

見ると洗面所がある方から猟師姿の長次が現れた。
いつ来たんだろうか。いやそれよりもその恰好のなんと頼もしいことか


「助かったよ長次!ちょっとこの人はがすの手伝っ…!?」

「…!」


首もとにガリッと痛みが走ったと同時に、俺の上から退く貞子さん…基、仙ちゃん。前にやっていた艶やかな黒髪をかきあげニヤリと笑う。
いや…相手が誰かわかっててもさ、怖いじゃん。むしろ相手がわかってるからこそ恐いと言おうか


「悪戯完了だ。楽しかったか?」

「まずお菓子か悪戯か選ばせて欲しかった…」

首もとを擦りながら仙ちゃんに言う。
首はなんか地味に痛いしちょっと濡れている。嫌だわ血かしら

「さて、何でもしてくれるんだったな」

「え゙、うーん…よし!男に二言はないよ!!ドンとこい!荷物持ち!?送り迎え!?肩揉み!?」

余談だが、これらは俺が小学生時代に仙ちゃんにやらされていたことである。

「どれも魅力的だがせっかくのハロウィンだ。名前には私の代理で悪戯をしてもらおう」

「?」

「…名前」

「あ、長次!ナイスなタイミングで来てくれて有難う!猟師さん似合ってるよ!」

「あぁ、…有難う。……これ、家で焼いてきたから…」

「わ!パンプキンパイ!?流石長次だねー大事に食べるよ!!あっ俺からはリビングにスウィートポテトとかクッキーとかあるから好きなだけ食べてね!!」

「あぁ…」


静かに微笑む長次。
あぁ…俺のオアシスタイムここで終了か短すぎる…
チラリと横目で先程閉めた自室のドアを見ると何とも言えないオーラを放っているように思えた。この先には波乱しかない気がする。


+++++


カボチャ頭をしっかり被り直し、頭の中で仙ちゃんにさっき言われたことを復唱する。上手くいくかはかなり不安だがやるっきゃない。
一つ小さく息を吐き、ドアノブを掴む手に自然と力が入った。


「おお菓子か悪戯か!…てちょ!?小平太何してるの!?とっ留ちゃんそこは開けちゃ…!い、いさっくんまで!!?」


意気込んで部屋に入るともう…ね……
小平太はクローゼットを漁ってるし留ちゃんは机を漁ってるしいさっくんまでベッドの下を覗きこんでいる。なんだエロ本なんてないぞ!…多分!

落ち着いてからそれぞれの恰好を見る。実は先程はお着替え中だったので一度閉めたのだが…(そもそもいつ家に来て何故俺の部屋を更衣室に使用してたのか)次に開けた時に部屋を漁られていたのにはビビった。
留ちゃんが赤ずきんでいさっくんが狼…さっきの長次を考えるに童話で揃えているらしい。小平太は…


「小平太…その恰好は…?」

「悪魔だ!滝夜叉丸と対にしたんだ!!似合うか!?」


くるりと一回転する小平太
可愛い、が露出が多すぎる。黒い羽や角カチューシャは悪魔っぽいが服装は悪魔でもなんか淫魔だ。デザインは誰がしたのか激しく問い質したい
思わず留ちゃんを睨んだ。なんで止めてくれなかったのか


「…俺が止めて聞くかよ」

視線で通じたらしい。流石だ

「…似合ってるよ、可愛い」

「本当か!?じゃあ名前!私に悪戯していいぞ!!」

「いいの?」

「!? おい、名前!?」

「じゃあ遠慮なく」


キラキラ瞳を輝かせた小平太に目を閉じるように言うと素直に閉じてくれた。横では留ちゃんが何やらギャーギャー言っているのをいさっくんが止めている。
なんだ信用ないな俺。いくら健全な男子高校生と言えど皆のいる中で襲ったりしないよ!

俺は全体的に薄着な小平太に自分の学ランを着せ少し考えた後、小平太のおでこにキスをした。
目の端で留ちゃんが固まった。


「はい、おしまいだよ!」

「ぶぅーこれだけか?」

「悪戯だからねー」


へらっと笑いながら小平太の頭を撫でるが内心は嫌がられなかったことに安堵し、慣れないことをしてしまったからか背中に変な汗をかいていた。


「名前君、名前君」

「…え、なぁにいさっくん?」

いさっくんが苦笑いで隣の人物を指差す。

「………………。」

留ちゃんがショックで固まったままらしい。大袈裟だなぁ俺だってデコチューくらい……めっちゃ緊張したけど…


「名前君の悪戯の方法ってその…自分で考えたの?」

「まさか!仙ちゃんだよ!とある理由で断れなくて…相手の一部分にキスしてこいって。俺の反応見て楽しんでたよ…」


因みに仙ちゃんには手の甲(本人の要望)、そして何故かお菓子をくれた長次(こちらは頬)にまで済ませてきた所だ。


「仙蔵のヤツ!何考えてんだ!!」

お、留ちゃん復活

「それにしても…」

二人の仮装を見る。

「なんか新鮮だね」

普段を考えると優しいいさっくんが赤ずきん、カッコ可愛い留ちゃんが狼っぽいのだが。

「…変かよ」

「ううんそんなことない!すっごく可愛いよ留ちゃん!!」

「……おう」

「いつもミニスカスパッツなのに、そーいうの清楚丈って言うんだよね!留ちゃんの美脚が引き立つねぇ!」

「清楚丈って…どこで覚えてくんだよ」

呆れたというように笑う留ちゃん。いやホントに可愛いな赤ずきん留ちゃん
幼馴染み相手にでれでれしていると不意に腕を引かれた。いさっくんだ。

「じゃあ名前君からの悪戯はちゅーなの?僕にもしてくれる?」

何ですと!?

「おい伊作、何を…」

「だって僕ここに来る時にお菓子をダメにしちゃってないし…手ぶらで来ちゃったから申し訳ないんだ」

「えっそんなの気にしなくてもい「それに今は狼だからね積極的にいかなくちゃ!」


そう言って肉きゅうのついた手袋をした手を顔の横まで持ってくるとガオガオ!と鳴く?いさっくん…
天使な上に小悪魔で狼だ、と…?


「じゃあ失礼して…」

「うん!」


俺に顔を寄せて目を瞑ったいさっくんに思わずふぉおおっ…と感動していると留ちゃんに頭をバシッと叩かれた。すいません
また少し考えて小平太の時と同じようにデコチュー


「…えへへっお揃いだー」

「「?」」


頬をほんのり染めて笑ういさっくんの発言に俺と留ちゃんはハテナを飛ばすばかりだった。




「留ちゃんゴメン…!」

「は?……っ!?」


ちゅぅ


少し不機嫌になってしまった留ちゃんの腕を引っ張り頬にキスするつもりが反射神経の良い留ちゃんが少しこちらを向いてしまい、謀らず唇の端っこにキスしてしまった。
ぽかんとした顔から一転、みるみる真っ赤になる留ちゃん


「いやその…仙ちゃんに三年全員にやってこいって言われてて…」

「………………。」

「ご、ごめんね…」


謝った瞬間キッと鋭く睨み付けられビビる。謝ったのに!
無言で紙袋を押しつけられ、足音荒く留ちゃんは部屋から出ていった。一階で小平太の呼ぶ声に答えているのが聴こえてくる。


「謝ったのがいけなかったねぇ」


そう言うといさっくんも留ちゃんの後を追うように退室する。すれ違い様に肩を励ますようにぽんっと叩かれた。
押しつけられた紙袋には南瓜型や猫型、スティックキャンディー型にされたジンジャークッキーが入っていた。色鮮やかなチョコペンか何かでデコレーションもされてある。流石留ちゃん、手がこんである…


+++++


最後のターゲットである文次郎を探して家中をうろうろする。少し離れたリビングからは楽しそうな笑い声が響いていた。楽しそうで何よりだ。料理や飲み物がちゃんと足りているか気になるが文次郎を探す方が先だろう。…にしても小平太にデコチューする時点でカボチャ頭は小脇に抱えている状態なんだがこうなってくると邪魔にな…いやでもせっかく作って貰ったし…仮装してるんだし…


「ゔぅぅ…ぐぬぬ…」


カボチャ頭の必要性について悩んでいると洗面所の方から呻き声が。もしかしなくても文次郎だろう。どうしたのだろうか?


「文次郎ーどうしたのー?入るよー」

「!! なっ!?名前!!」

「はい、名前です。どうし…」


洗面所にいた文次郎の恰好は小平太並みに薄着でしかも寝間着ぽかった。
俺はこの時珍しく冴えていた。文次郎の寝間着っぽい仮装?を見てピーンとキたのだ。そういえばまだ赤ずきんのおばあちゃん役が残っていた、と。目の前で可哀想なくらい真っ赤になっている反応から考えるに断れなかったのだろう。それなら、普段シンプルで落ち着いた色合いの物を好む傾向にある文次郎がふんだんにフリルとレースを使われた臼桃色の寝間着を着ていることにも納得がいく。
…仙ちゃん辺りが面白がって着せたのかなぁ可愛いものが好きな長次やいさっくんも考えられるけど無理矢理文次郎に着せるような真似は二人はしないだろうし。……それにしてもあの頭に被られた帽子?みたいなのの役割は何なんだろうか?…防災?いや、きっと寝癖防止とかだろうな女の子は大変だなぁ


「ちちち違うぞ名前!これはナイティだかベビードールだかいうれっきとした寝間着…らしく、決して下着というわけではッ…」

あぁ、下着みたいだなって思っちゃってここから出にくかったのかな?

「大丈夫!留ちゃんや長次、いさっくんにも会ったから文次郎の配役知ってるし!誤解してないよー…お互い困った友人を持ったね」

「……全くだ。」


誰とは明言しなかったがはっきり伝わったらしい。重たい溜め息を吐く文次郎、に近寄る俺。
悪戯代理を無事遂行しなければ後が怖いのだ。


「…ごめん文次郎」

「? なん…だっ!?」

肩を掴み抱き締める
背中に回した手で一撫ですると良質な生地の肌触りが心地よかった。


「悪戯させて…?」

「〜〜〜ッ!?」


耳元で言うことによって俺の必死さが伝わったことだろう。今度は両肩に手をやり拳一つ分くらい距離をとった。文次郎は先程のように耳まで真っ赤にしており焦点は定まっておらず、目尻には涙まで浮かべている。…シチュエーション的に変な誤解をしてしまいそうなのでそういう顔は止めて頂きたい。グッとクるから。


「大丈夫だから…じっとしてて…?」

「〜〜〜〜っ」


留ちゃんの時みたいになったら申し訳ないのでじっとしてるように言うとこちらがお願いする前にぎゅっと目を瞑ってくれた。
俺は誘われるままに文次郎の隈の酷い目元にキスをした。


「「…………………。」」

「…………名前」

「……文次郎」


ハロウィンってちょっといいかも…とか思っているとフッと意識が落ちる感覚が。
意識が途切れる寸前に見たのは般若の形相をした仙ちゃんと留ちゃんだった。


……やっぱり悪戯は程々がいいらしい




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