――…けどんどーん…――

ビクッ


「名前?」

「まさかまさかそんなもうこっちに来て」

「おい、どうしッ!?」


階段から聴こえてきた音が近づいてきているのに気づき、留ちゃんの口を手で塞ぐと、すぐに暴れられたのでその場に押し倒して自分の体で留ちゃんをおさえた。

なにやら怪しい体勢だが、こちらもそれなりに命がかかっているので気にしている余裕がない。


「ゴメン留ちゃん、お願いだから少しの間じっとしてて…」

「っ!!」


顔を真っ赤にして俺を見る。その後はぎゅっ目を瞑って俺の背中の方の学ランを掴んできた。
あれ?なんか更に怪し――

ガチャッ!!


「「!!」」

「名前ー?」


小平太だ。俺の緊張が高まる。
ヤバい、見つかったら…


「せっかく私が弁当をあーんしてやろうとしたのに…トイレに行ったらいなかったし何処へ行ったんだ?」


あれは箸を喉に突き刺す勢いだったし、そもそも男子トイレに女の子は入っちゃダメだ。
だいたい小平太の行動もわからない。初日のタックルに始まり、さっきのあーんも。ことある毎に抱きついてくるしその…身体をめっちゃ触られたり。女の子も溜まったりするのだろうかいやいやでも俺じゃなくても小平太ならもっとイケテるメンズをうんたらかんたら。
ぐるぐる考えている俺のただならぬ気配を感じとったのか留ちゃんに頬をつねられた。
小平太は別の場所を探しに行ったみたい。
留ちゃんから離れて胡座をかく。自然とため息が出た。


「……小平太と付き合っているのか?」

「まさか。違うよ…そんな、俺なんか」


+++


名前は教室に戻る、と言って出ていった。「留ちゃんまたね」と言っていたのでもう避けたりしないのだろう。自然と笑みが溢れる。
小学校時代の友人…まぁ自分はそう思っていないが名前は変わらないままだった。今は小平太のストレート過ぎる好意に困惑しているようだ。自分のことにはネガティブで鈍感な奴だ無理もない。

小学生の時に名前は事故で両親を亡くし母親の弟さんと暮らし始めた。弟さんは名前を溺愛していたし、生活には問題はなかったが両親の件で名前はイジメにあった。何故お前だけ生き残ったのか、親がいないからお前は愛されない等のことを言われていた。当然、イジメていた奴等はシメてやったが言われた言葉は名前の中に強く根づいてしまった。
子供の時に言われたことだ。しかし、今でも無意識に気にしているのだろう。
「俺が一生守ってやる!」あの言葉に嘘はないが小さい俺は素直に名前のことが好きだと言えなかった。
でも、今は違う。


「恋敵は多そうだな…あいつ、フラグたてまくりやがって」


知った顔達を思い浮かべて留三郎はため息を溢すのだった。


+++


教室に戻ると既に小平太は戻ってきていた。俺に気づくとぶすっとした顔で寄ってくる。


「留ちゃんとは話せたのか?」

「あれ…気づいてたの?」


冷や汗が出る。というか二人知り合いか。いや、中等部からだし当たり前だよな。しかも、俺らのことも知っているらしい。


「ねぇ、なんで小平太はその…俺によくしてくれるのかな」

「? 名前が好きだからだぞ!」

「いや、でも…」

「細かいことは気にするな!」


小平太が抱き着いてくる。近い位置からだったのでそれほど衝撃はなかった。


「私は名前が好きだ!それだけで理由になる!」


ニカッ!と小平太が笑う。


「いや、ちょっもう離して!よく考えたらここ教室っ」

「名前、まだ何故留ちゃんを押し倒していたのか聞いてないぞ?」

「え゙」


田中、素敵な友人が出来ました。


(心の奥がスッとして、気を抜くとわんわん泣いてしまいそうだった)