3年になって一週間、そろそろ部活に顔を出さないとヤバい。部長さんは1組で放任主義な人だから大丈夫なのだが…名前を出したら現れそうで怖い。このまま幽霊部員になろうかしら3年だし……無理だろうな。
だいたいクラスでは長次と小平太としかまともに会話してないのに。まずはクラスを居心地良い環境にしたい。いや、原因は分かっているんだ。今もその原因から逃げてきたのだから。
屋上のそのまた上にある階段を登った先にある給水タンクの隅で息を殺す。まだ、安心はできないのだ。


ガチャッ―――


暫くすると屋上のドアが開いた。
おもわずビクッとする。
上履きの音が……2つ
長次もいるのか…?


「先パイ……ッ!」


知らない女の子の声だ。一先ず安心らしい。


「私!先パイのことが好きなんです…!」


完璧に出ていくタイミングを逃した告白とか、マジか。
内緒話なら聞いちゃいけないと思っていたが…別に、羨ましくないし。俺なんて女の子に「俺が一生守ってやる!」て言われたことあるし!…小学校時代のほろ苦い思い出だ。確かに彼女は誰より強く格好良かったが……俺の男としてのプライドはズダボロだったよ…。
昔の思い出にちょっと浸り、春早々に告白されている幸運な男はどんなイケメンなのかと興味がわいた。給水タンクの陰から声のする方を伺うと、


「………え、」


階段へと続くドアを背中に顔が見えない女の子が一人、向かい合うようにして女の子が一人。
しかも、こちらから顔が見える方の予想するに告白されて困った顔をしているのは、


「……留ちゃ」

「? …っ!?」


ん、と発音する前に留ちゃんがこちらに気付いた。え、うそん。
みるみるうちに顔を真っ赤にしていく。うわー林檎みたい!
そりゃ小学校時代の友人に同性から告白されてる現場を見られたら恥ずかしいよなぁ。
でもなんか留ちゃんなら納得出来る気がする。うんうんと一人頷いていると留ちゃんは相手の女の子に何か言って、女の子は屋上から出ていった。留ちゃんが俺の所まで来ると、


「名前!!」

「ぐぁッ!?」


いきなりわき腹に蹴りをかましてきた。ちょー痛い。
給水タンクを背にずりずりとうずくまる。手加減されても空手部の蹴りは痛い。留ちゃんはそんな俺を腰に手をあて、仁王立ちで見ている。
肩につくくらいの黒髪をハーフアップにしていて可愛い。学園のセーラー服もよく似合っているし、小学生の時に比べて色々成長している。短めのスカートが風になびいてスパッツをのぞかせているのを少し残念に思いつつ、その下のおしみなく曝された美脚に目を見張る。


「綺麗になったね、留ちゃん」

「脚を見ながら言うな」

「何言ってんのー顔は元から可愛いでしょー」

「おっ!まえ、は…」


留ちゃんは何か言おうとした後、ガックリ項垂れた。失礼な。


「お前、俺達のこと避けてたろ」

「何のことやら…」

「仙蔵が遭遇する機会を手ぐすね引いて待っているぞ」

「すいませんした」


流れるように自然な動きで土下座する。身体が覚えていて悲しい。
だって俺だけ市立の中学行ったし、今更小学校の時の友人に会いにいくなんていかにも友達いない奴みたいじゃないか!俺には田中や、今や長次と小平太だっているんだからね!!
一番の理由は学園に入学した時、仙ちゃんも留ちゃんも俺が話しかけられるような存在じゃなかったからだが。中等部からの持ち上がり組の中でも群を抜いて光っていた。


「……会いたくなかったのか」


気配が近くなって顔を上げるとすぐ目の前に留ちゃんの顔があった。つりがちな目が相変わらずカワカッコイイ。


「…留ちゃんが女の子が好きでも会いたかry

「俺はフツーに男が好きだッ!」


俺の頭に綺麗に手刀がきまった。