話は戻ってちょうど一年前の春。放課後の図書室。俺は本を借りにきていた。
一応、放送部に所属しているので朗読用の本などをよく借りに図書室には来ていた。そこで知り合ったのが長次だ。長次は放課後、部活以外の日は絶対にいて本の整理や読書などをしていた。
え、詳しくないかって?…思春期の男子たるもの身近な可愛い子のチェックは余念がないものだぞ、兄弟よ
長身痩躯に見えるがあれで結構力持ち(前に本の整理を手伝おうか、とチキンハートに鞭打って話しかけたら軽々と分厚い本の数々を持って断られた経験アリ)腕や脚が細いせいか余計胸やお尻が強調してみえる。ほ○の○き的な。
亜麻色の絹糸のような髪は綺麗で触ってみたいし、本を読むためにうつむきがちな目は長い睫毛があらわになっている。鼻はシュッとしているし閉じられた口は小さく、桃色だ。両頬にある傷が痛々しいが、それでさえ彼女をより儚げで人間離れしてみせた。無口無表情だからさらに人形のように見える…、と思っていたのだが。
「な、中在家さん」
「……………?」
「オススメの本とかあったら教えてもらえない?」
その日の俺はちょっとばかしテンションが上がっていて何を思ったのかそんなことを言った。
「この前本の整理の手伝いの申し出をすげなく断られていた分際で」と俺の小学校時代の友人なら言うだろう。物凄く人を見下したような顔で。それが似合ってるんだから嫌になるよね
中在家さんは暫くの間俺をじっと見た後、口を開いた。
因みにこの時点で俺は背中がびっしょり汗で濡れていた。
「……朗読用の?」
「えっいや普段読む用で…」
驚いた。中在家さん俺が放送部とか知ってるのか。ちょー嬉しいんですけど。
その後2、3個質問されて着いてきて、と言われた。いや正確には視線で促された。
今更だが大川学園の図書室は蔵書数が多く、ジャンルも充実している。まさか全部どこにあるのか把握しているのだろうか凄いな。本、好きなんだな。
「…………これ」
勧められた本は絵本だった。大人でも楽しめるとそこそこ有名なヤツ。難しそうな本じゃなくて良かった、とホッと息をつく。
フッと音がして中在家さんを見ると口角を少し上げて俺を見ていた。
あ、笑ってる。
前に見た図書室で騒いでいた人達を撃退していた時の笑顔と全然違った
「中在家さん笑うと綺麗だし可愛いね」
心からの一言だったのだがそう言うといつもの表情に戻ってしまった。
しかし、それから本の感想を言ったりたまに本の整理を手伝ったりと交流が出来た。話してみると彼女は人形っぽくなく、当たり前だが普通の女の子だった。
登校中、見覚えのある背中に声をかける。
「長次ー」
「……名前」
「おはようっ早いなー」
「あぁ……おはよう」
朝から長次は可愛いし綺麗だ。いやいつもだけどね!!
自分でもわかるくらいデレデレしながら歩いていると猛スピードで自転車がこちらに走ってきていた。
「危ッ…!!」
「……!!」
そのままでは危ないので咄嗟に長次を自分の方に引き寄せた。
「ふぃー危なかったなー朝からとばすなよなー、全く」
「……………名前」
「ん?」
「……手」
強く引き過ぎたせいで半ば抱き締めてるような体勢になっていた。そこまではいい、役得だ。
しかし、俺の左手は場所を間違えたのか長次の片方の尻を掴んでいた。下から持ち上げるような感じで。
事態を把握して赤くなったり青くなったりする俺の顔。咄嗟にぎゅっとしっかり掴んでしまった。
「……ッ、名前…」
すいませんすいませんわざとじゃないんです。
すぐにバッと離れると長次は顔を赤くして自分のお尻を手でおさえた。おさえますよね、すいません。
「……何をやっているんだ?長次、名前」
後ろを振り返ると一部始終を見ていたのか背後に何か黒いものを背負って笑っている小平太がいた。
助けて、田中。
(……………女の子ってやわらか(名前?)……すいません)