※(笑)←を含む文があります



「まぁ…なんだ、よく話し合って決めろよ」


苦笑しながら言った担任の言葉にはぁ、とかへぇ、とか言ったのは覚えている
進路希望調査の紙はしわくちゃになっていたので新しい物を貰った

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「新しい物が欲しいです」


放課後の放送室に三郎の声が響いた
今日は間近に迫った体育祭に使う放送機材の点検をしていたのだ
確かに、新しいの欲しい


「あぁ!いいねぇスピーカーとかマイクとか新しいのいいね!もうすぐ体育祭だしさ!」

勘右衛門がそれに同調する

「「というわけで先パイ頑張ってきて下さ〜い」」

「やっぱりね!」


俺、先輩なのになぁ…



新しい放送機材が欲しい、ということはつまり学園の会計委員会に喧嘩を売りにいくも同じだ。今期の分の予算はちゃんと貰っているからね!弱小部の予算なんて微々たる量だけどね!まぁいくつか本当にガタがきてるし、学園行事も間近だからわりと簡単に納得してもらえるんじゃないかなぁ、なんて思っていたけどそれはよく舌の回る三郎が会計委員会に交渉することが前提の話であって俺なんかが行っても…、と一応拒否はしたのだが「対潮江先輩なら私がお願いするより名前先パイのが効果的です」と言われた。そんなバカなー。

会計室の前でウロウロする。

そういえばランキングの件で仙ちゃんのとこに行った時に文次郎の話が出ていたような…文次郎、忙しい人だからなぁ。せっかく知り合えたので仲良くなりたいけどなかなかタイミングがない。俺の周りでは少ない大和撫子キャラなので是非ともお近づきになりたいのだが。そして俺に癒しを!切実に!!
考えていても仕方ない。取り敢えず駄目元でアタックしてみるか。二、三回深呼吸してから会計室のドアをノックする。


―――コンコンコンッ ドキドキ


「誰だ」

あ、文次郎の声だ

「お、俺!名前だけど…放送部の用で来」ガタン!ドサドサドサッ

え、何事?

「なっえっ…名前か!!?」

「う、うん大丈夫?文次郎入るよ?」


室内に入るとそこは大きい机と長机が何台かとパソコン、なんかゴツい算盤が沢山と山のような帳簿……と床に散らばる資料?を拾い集める文次郎がいた。
さっきの音の原因はあれが落ちたせいかな?


「あ、拾うの手伝うよ」

「す、すまない…」


手伝いつつ俺はテンションが上がっていた。文次郎が夏服に替わっていたのもあるが今の彼女は、


「(おわースゲー出来る女性っぽい!カッコイイ!!)」


髪を首の後ろで束ねて1つに結い、作業中だけかけるのか眼鏡をしていた。それだけだとなんとも近寄り難いインテリ美女なのだが…


じーーっ

「……………。」


文次郎はなんか色っぽい。
仙ちゃんとはなんか違う色っぽさだ。上手く言えないが多分、自覚の問題なのかもしれない。仙ちゃんは自分の美しさを知っていて一つ一つの仕草が完璧なのに対し、文次郎はなんか隙があるというか初々しいというか。実際すぐ真っ赤になって可愛いし、その表情が見たくて積極的にスキンシップをとる場合もある。……クラスの男共には「潮江さん?お前変わった趣味してんなぁ!」とか言われるが。何でだ、謎だ。
とにかく、無自覚なエロス(ハチもこれに該当)のせいで勘違い野郎に狙われないか友達としてちょっと心配。


じーーーーーっ

「…………………っ名前」


おっと見過ぎてた!でも真っ赤になって俯いてる文次郎可愛いよ!て、そうじゃないよな


「えっとごめん、眼鏡姿が見慣れなくてさー普段も可愛いけどそっちも可愛いねぇ」

「…っ!!よ、用件はなんだ!!?」


あれ、怒らせちゃったかな。え、でもなんで…?








「駄目だ」

「そこを何とか…」

「今期分の予算内で購入するなら俺も何も言わないが、このために費用は出せない。」

「うーん…」

「…今あるのでどうにかしてくれ」

交渉術について三郎はなんて言ってたかな?

『お堅い潮江先輩なんていつもの感じで口説いちゃって下さい。えぇ、いつもの感じで。節操なく。え?刺なんてないですよ?気のせいじゃないですか?』

嫌味しか言われてないな。だいたい…普段だって別に口説いたりしてないし。……………、


「文次郎!」

「っ!!」


逃げられたりしたら俺のハートが耐えられないのであらかじめ両肩を握らせてもらう。いやだって新しい機材必要だし……俺なんかに口説かれるなんて文次郎には悪いしウザいだろうけどどうか許して下さい。


「学園最後の体育祭…派手に素敵なものにしたいんだ。俺も放送でそれに貢献したいし……え〜っと、」

口説く、口説き文句、放送、マイク、スピーカー、新しいの欲しい…!

「おっ俺の声!何処にいても文次郎に届くように頑張るから!だから……っ!!」


うっわやべぇ俺臭ぇ(笑)

自分の顔が沸騰しそうなくらい熱いしヤバい、恥ずかし過ぎる


「おおおおお前っ!何をッいいいいい言って!!?」


だが言われた方の文次郎も負けず劣らず真っ赤だ。二人向かい合って真っ赤になりながらワサワサ動く


「いぇ…っ!?」

「!? 名前っ!!」


後ろに下がろうとしたらなんか踏んだ、と思った時にはひっくり返っていた。直ぐ傍にいた文次郎がすかさず俺に手を伸ばしてくれたが俺の体重を支えられず(まぁ支えられても微妙だが)二人して転けてしまった。三年になってから打ち身とか凄く増えた気がするんだがお祓いとか行った方がいいだろうか
それにしても、


「前にもこんなことあったなー」


俺の上に乗っかっている文次郎を見て思った。文次郎は俺を見下ろしたまま固まっている。


「大丈夫?怪我してない?」


繋がれたままの手を握手するように振ってみた。上に乗っかっている人が違うだけでこんなにも平和なんだね!前の人は脱がそうとしてきたのにね!!
しかし、経験から想像するにこの後は―、


「おい文次郎、体育祭で使う用具類の修…理、ひが…」

「「「…………………。」」」


間。


「おい…おいおいおいおいどういう状況だよこれは!やい文次郎!!てめぇ名前を襲ってたのか!?」

「ばっバカタレ!!そそそそんなわけあるか!!!!」

「真っ赤になってどもりながら言っても説得力ねぇよ!!つーか名前から早く離れろこの痴女が!!!」

「ち…っ違うと言っているのがわからんのかこの脳筋女が!!!!」

「あぁ!!?やんのか!?」

「やってやるさ!!!」


入ってきた留ちゃんと文次郎が言い争っているのをポカンと呆けて見ていると、携帯のバイブが鳴り三郎からメールが届いていた。

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From三郎
Sub任務終了
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名前先パイが潮江先輩を足止めしている間に学園長から許可出たんで早く戻ってきて下さい。まさか本当によろしくヤってるわけないですよね?

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足止…め……?
てか学園長から許可ってお前…
ヒートアップしているらしい口喧嘩をBGMに俺は一人、やるせない気持ちと闘っていた。


(俺の…!頑張り損……!!)