遂にラスト!三年の出番のようだ。
しかし、あまり気が進まない。さっきの三郎達との会話を思い出す。……正直、売られた写真を鑑賞以外の目的で使う奴もいると思う。好きな子のリコーダー舐めるとか短いスカートにドキドキするとかを例に、純粋な恋心なんて存在しないのだ。好きだから妄想だってする。女の子は嫌だよな、フツー。俺だって友達がその対象なんだって思うと気持ちはわかるが複雑だ。


「あのさ火男…写真のことなんだんだけど、」

「心配しなくても今年は販売やらねぇよ」

「え……」

「今年の会計委員長様は潮江さんで不正はなかなか難しいしなぁ。写真は本当に学園新聞で使われるだけだ。」

「えっえぇ!!だったら何も隠し撮りなんて最初からしなくても…!」

「隠し撮りはもはや習慣でな。申し訳ない」

「お前いつか捕まるぞ!それにさっきそれをちゃんと言ってくれたら説得だってもうちょっと早く済んだだろ!」

「まさか販売のことまで言うとは思わなかったんだよ。何より俺は竹谷さんを見つめるので忙しかった」

「バカ………」


溜め息しかもう出ない。
ランキングのことのみ話せば良かったのにという俺の落ち度もあるがやはり突っ立ってただけの火男に言われたくない。
竹谷、マジ逃げろ。
俺は友人と後輩の今後を心配した。特に竹谷…変なのに好かれるタイプじゃないといいんだが。
とにかく、これでこれから取材するメンバーには何も後ろめたさはなく交渉しやすくなった。良かったよ、本当。


◇前期ランキング(3年生) 第1位 善法寺 伊作


「いやー流石、いさっくんは強いねぇ」

「? 何の話?名前君」

「ううん、ただいさっくんは学園一可愛いねって話だよ」

「もぅ…またそーいうこと言うんだから。今日は何?名前君が男の子連れてるなんて珍しいよね」


いさっくんの発言に反応した火男が地味に足を蹴ってくる。男の嫉妬よくない、格好悪い。


「あははは…実は学園新聞に載せるので写真を撮っててさ、いさっくん撮らせてくれない?日常っぽい感じで」

「そーいうことなら手伝うよ。名前君からのお願いなんて滅多にないしね!」

「有り難うー今度何か奢るよ」

「本当?やったね!」


にこにこ笑ういさっくんとデレデレ笑う俺…ってちょ、痛い痛い踵ぐりぐりは痛い。後ろから禍々しい嫉妬のオーラを感じた。


「じゃ、じゃあいさっくん適当にカメラに向かって笑ってくれる?」

「うん!わかったよ」


自然な笑顔で2〜3枚撮り終えた。
俺はというと撮っている間暇なので保健室の薬品棚を見ていた。いや、見てもわかんないんだけどさ。埃などがないので頻繁に使われていることがわかる棚…いやいや消毒液以外何に使うんだろうか…。


「あっ!名前君そっちの棚はダメだよってうわぁぁあっ!!!!」


振り返るといさっくんがこちらに走ってきていて途中でつまづいたのか今まさに俺にむかってダイブするところだった。この時、俺は周りがやけにゆっくりに見えて頭だけ凄く働いていた。両手を広げて受けとめようとしたのだが先月の「ひかれる危ないよ!尻タッチ事件」を思い出し、慌てて両手を前にやり拒否を示した。事故でも尻タッチは問題がある。
しかし、転ぶ途中の人に拒否を示しても意味がないことを失念していた。倒れかかってくるいさっくんにいちかばちか両手を前にやったまま目を閉じた。抱えなくても受け止められれば……!!


もにゅぅ


効果音を付けるならこんな感じだった。
掌のやわらかい感触に目を開くと……あー…。
俺の綺麗に揃えられた両手はいさっくんの胸を押す状態だった。……少しでもまともに表現しようとしたが駄目みたいだ。俺の心境としては「尻タッチの次はぱいタッチかよ俺ふざけんな」である。
とりあえずいさっくんが派手に転ぶのは防げたので恐る恐る胸から手を離す。手を離す時にいさっくんの胸が俺の掌を追ってきてるような感覚を受けた。実際は形を取り戻しているだけなのだが。


「い、いさっくんあの「ひっひゃあぁぁあああ!!名前君のえっちーーー!!!!」


平手打ちをされたのは言うまでもない。
いさっくん信者に知れ渡ることがないよう切に願う。


◇前期ランキング(3年生) 第2位 立花 仙蔵


ここからはカメラ片手に俺一人だ。3年の2位、3位は俺一人の方がいいらしい。それにしても…


「3年は顔重視なの?いや可愛いし綺麗だし正直汚点を探す方が難しいけどさ。性格に難アリっていうかもしかしてドMばっかなの?」

「不満そうだな?名前」

「ソンナコトナイヨ仙チャン」

「ふん、まぁいい。私も2位というのに納得がいってないしな」

あ、そこなんだ……て。

「ランキングのこと仙ちゃん知ってるの!?」

「1年の頃から決まった時期に変な奴が周りを彷徨いてたからな。聞いたんだ」

「(穏便な聞き方じゃなかったんだろうな…)じゃあ話が早いや学園新聞に載せるから写真撮らせてー」


カシャッ


「ありがと仙ちゃん!」

「おい!待てまだいいと言っていないぞ」

「それじゃあねー!!!」

「名前ーーー!!」


文次郎が気持ち悪いからたまには構ってやれという言葉を背中に聞いた。素直じゃない優しさが彼女らしい


◇前期ランキング(3年生) 第3位 中在家 長次


「長次」

「? ……名前」


カシャッ


後ろから声をかけ振り返った長次を一枚。おぉ、見返り美人


「…………名前」

「いきなりごめんね長次、学園新聞に載せる写真を撮っててさ」

「………そうか」


なんだかガッカリしているように見える。


「長次?」

「……名前は忙しそうだな」

「うーんまぁいいように使われてはいるよね」

「……………。」

「長次、どうかした?」


いつもと様子の違う長次に段々心配になってくる


「長次、具合が悪いなら俺保健室に付き添「図書室……」……お?」


俺の手をとり控えめにひっぱる長次。そういえば最近図書室へ行けていない。教室でも長次とは話したりはしているが小平太がいるのでなかなかゆっくり出来ないのである。


「…あーっと、久々にオススメの本とか教えて貰える?貸出し出来ないヤツで!読みに行きたいからさ!」

「…………あぁ」


うっすらと柔らかく微笑む長次。俺はこの笑顔が好きだったりする。

(カメラは明日にでも火男に渡せばいいよな)

掴まれたままの長次の手をとり、俺達は図書室へと向かった。


+++



「ほい、約束のブツだ」
「おー有り難うー」
「てかお前さ七松さんに告んねぇの?」
「何なの藪から棒に…あっこの三郎絶対カメラに気づいてるぞ」
「マジか、鉢屋さん鋭いよなぁって違ぇよ!」
「告白とか…そんなん…」
「そこでヘタレ発揮すんのかよ…」
「…何で小平太があんなに想ってくれてるのかわかんなくて…」

写真の中の小平太はアタックが決まったのか快活に笑っている。可愛い

「それにそーいう関係になっちゃうとさ、もし別れたりしたら今までの友達だったのもなかったことになりそうで…」
「気持ちはわかるが面倒な奴だな名字」
「人が恥ずかしいの我慢して話してんのにあんまりじゃね?それに、ランキングに名前書いたからって告白っていうのは…」
「要するに自分の中で決定打がないんだろ。そんな悠長なこと言ってると横からかっ拐われるぞ」
「…………うーん」
「それよりもう6月だろ?水泳部の活動いつからかなぁ!!」
「授業もまだなんだからそれより先だろ」

火男の話に相づちをうちつつ、俺って女々しいよなぁと落ち込んだのだった。


(何も悩まずに彼女の手を引けたなら、)