昨日の夜の電話で留ちゃんの家におよばれした俺。
思えば留ちゃんの家へ行くのはいつぶりだろうか?父さんと母さんが亡くなってからも留ちゃんの家にはよくお世話になった。仕事で叔父さんが遅くなる日は学校からそのまま留ちゃん家へ遊びに行って叔父さんの帰りを待ったりしていた。
でも小学校の卒業が近づくにつれ足がだんだん遠のいて。
久々に通る道は懐かしいがどこか緊張する。それに留ちゃんも俺ももう17歳で高3だ。小学生の時とは色々違う。ヤバい色々考えてたら更に緊張してきた。
俺はとりあえず寄り道をして近くの洋菓子店でお土産を買いにいくことにした。いや、手ぶらはよくないからさ、うん。礼儀だよ?礼儀!
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「こんにちは、留ちゃん」
「名前、遅かったな。伊作もう来てるぞ」
「………俺がいさっくん目当てだけで来たみたいな言い方をしないでくれない?はい、これお土産ー」
「夕飯にも釣られたんだよな………プリン?」
「手ぶらでお邪魔するのもあれかなって」
「今更だろ、でも有り難うな。後で食おーぜ」
「うん」
喋りながら留ちゃん家にあがる。
記憶よりもどれも小さく思えた。ドアノブの位置とか天井までの高さとか全く違う。人ン家来て再確認するのも変だが3年で成長したんだなぁ俺。
「変わってないねぇ留ちゃん家」
「家ん中なんてそんな変わるもんでもないだろ」
「おばさんは?」
「買い物行ってる。多分夕飯豪華だぞ楽しみにしておけ」
「わーい料理上手だよねーおばさん」
何気ない会話をしながらリビングに向かう。
「名前、こっちだ」
「え?リビングじゃないの?」
「俺の部屋だ」
「………え、いいの?俺入って…」
「お前に俺や伊作をどーこーしようなんて度胸はねぇよ」
「当たってるから余計腹立つね!」
どうにかしたい気持ちがなくてもこうも警戒されてないと悔しいものである。
部屋に入るといさっくんがいて、部屋の中央に置かれたテーブルの上には教科書やノート、参考書などが散らばっていた。あぁ成る程
GWがあけたらすぐ中間考査だ。
今日は勉強会なんだろう。
「俺何も用意してきてないんだけど…」
「解る範囲で俺と伊作に教えてくれ。そのために呼んだんだ」
「よろしくね名前君」
「りょうかーい」
先生役を命じられたからといって俺の頭が良いわけではない。しかし、赤点ギリギリを平均点へと底上げするくらいは可能だ。二人共得意科目と不得意科目の差が激しいだけで、学ぶことにも意欲的だし問題なかった。いさっくんのケアレスミス率はもはや神がかっていたけれども。
一通り終えて俺が買ってきたプリンを食べる。ケーキ類は趣味がわかれるからと避けたのは正解だったな
「それにしても…留さんちょっと自重しなよ」
言いながら部屋を見回すいさっくん
用具委員会で使うのだろう工具や空手のトロフィーや盾やらで留ちゃんの部屋は物が多い。
しかし、一番目がいくのは壁に貼られた写真たちだろう。後輩達と撮られたのだろう数々の写真に並んで小さい子供の写真。小学生の時の俺と留ちゃんと仙ちゃんだ。沢山貼られているが何故だろう。写真の中の俺は半泣きながらも嬉しそうだ。えー全然覚えてない…
「凄い枚数だねー」
「あぁ、これ以外にもあるんだ」
「こんなだからロリショタ趣味とか言われるんだよ」
「え……………」
一気に部屋の写真の数々が怖くなった。
無意識だったが身体もいさっくんよりになり留ちゃんと距離をとっていた
「………名前?中等部時代の伊作や仙蔵が見たくないか?」
「え!」
どこから取り出したのか留ちゃんの右手には卒業アルバムらしいものが。
「見たい見たい!」
「ちょっ留さん!アルバムはダメってうわぁあっ!!」
「え、ちょっぎゃ」
何かにつまづいたらしいいさっくんに後ろからのしかかられ、必然的に目の前にいた留ちゃんに倒れ込む。二人分の重さに留ちゃんが耐えられるわけもなく、ドミノ倒しになってしまった。てか前が見えないしかも息苦しい
「? んー!」
「うぁっちょ!名前!!動くなよくすぐったい…っ!伊作、早くどけっ」
「うぅ〜退いたらアルバム見せちゃうでしょ?」
少し上の方から留ちゃんの声がして、耳のすぐ後ろからいさっくんの声がする。そしてさっき動いた時の顔にあたる感触は…!ていうかそろそろ息が…っ!
「んー!んー!!」
「ひゃ、いい伊作!早く退けっ名前が苦しがってる!」
「………留さんちょっと喜んでるでしょ」
「いいから早く退け!アルバムは見せないから!!」
約束だよ、といいながらいさっくんが退く。背中の重みが消え、やっと顔をあげて息を吸うことが出来た。ぷはっと息を吸っていると留ちゃんと目が合うなり睨まれる。顔を真っ赤にして若干目も潤んでいるので迫力に欠けているが。
「えっと…事故だったし俺も忘れるから留ちゃんも気にしなくて「ちょっとは気にしろぉぉおおお!!!!!」げふ…っ!?」
鳩尾にグーパンチはツラい。
留ちゃんの気持ちを考えたのに…乙女心って難しい。
結局、そのままの空気で夕飯を戴くことになったのだが留ちゃんは完璧に拗ねていた。話しかけるたびにただ睨むのは止めてもらいたい…
留ちゃんの様子を気にすることなく「美味しいねー」なんて言っていたいさっくんは意外となかなかの豪傑なのかもしれない。