ドアを開けた美少女を見る。
豊かな黒髪が腰までありそれを緩くサイドに縛っている。ツインテと言うよりおさげだ。肌は色白だし背も高くはないので一見儚げだが、眉はキリリとしているし大きな目もギョロッとしていてなんか強そうだ。冷たい雰囲気といい近寄りがたい美少女だな。
てか睫毛なっげぇ
現実逃避の果てに見た夢…ではなくあれは現実だったらしい。では俺はこの子にプロポーズ紛いなことを本当に言われたわけで
その前にこの子誰だろうか
「……………。」
「……………。」
無言で見つめ合う俺と美少女。
甘さは欠片もない
「兵助」
勘右衛門が美少女に話しかける。
知り合いらしい。
「勘ちゃん…この人と知り合い?」
「放送部の先パイだよ。名字名前先パイ」
「先輩だったのか…」
美少女がまた俺の方を見る。
眼力パねぇ
そのまま俺の目の前まで来る。やはり先ほどいきなり走って逃げたことを怒っているのだろうか
脳が危ない方向へいっていると判断した俺は逆プロポーズされた直後、走って逃げ出したのだ。
夢だと思っていたし
「名字名前先輩」
「は、はい」
「忘れていかれたので持ってきました」
「あ………」
彼女の手元を見ると俺の通学鞄と空のタッパーがあった。あれ、半分くらいしか食べてなかったんだけどな
「あ、有り難う」
「いえ、こちらこそご馳走様でした」
やっぱり食べたのか
そうだよね口の端に付いてるのどう見てもご飯粒だもんね
実は昼食を食べ始めてあまりの視線に耐えられなくなって一口あげたのだがあの時にもう、全部持ってかれる気はしていたのだ。いつの間に現れたのか謎だし、スゲー見てくるしでちょっと怖かった
この登場の仕方も俺が夢だと思った原因の一つだ
「改めまして、久々知 兵助です。2年1組弓道部所属です。不束者ですがよろしくお願いします」
綺麗なお辞儀をして顔を上げた彼女と目が合うとポッと頬を染めて微笑みかけられた。
急な展開についていけない
「いや、あの「「「ちょっと待った兵助!!」」」…うおっ」
ツッコミを入れる前に待ったが入った。
どーでもいいけど最近よく言葉を遮られる。ちょっと寂しいなんて思ってないんだからね…っ!
俺と久々知の間に割って入ったのは三郎に雷蔵、ハチだった。
「黙って聞いてたら兵助!お前先パイと初対面だろう!?それなのにぷ、プロポーズって…!」
「そうだよっまずはお互いをちゃんと知った上でっていうかでも名前先輩と付き合われるのはちょっと困るというか」
「兵助やめておけ、名前先パイなんてろくでもないぞ。」
各々久々知を説き伏せているようだ。とりあえず三郎には後で俺必殺のデコピンを食らわせてやる
「先パーイ」
呼ばれて振り返ると勘右衛門が一人、席について菓子を食べていた。ちょいちょいと手招きされる
うん、先輩を呼ぶ態度ではないが妙にヤツらしいから許してしまう……後輩に甘いよなー俺
四人は放っておくとして勘右衛門の隣に座るとニヤついて話しかけてきた
「いやー困りましたねぇ名前先パイッ!」
「お前は本当に意地悪い奴だよ勘右衛門」
「あはっモテモテですねー」
「有難いことにな」
「ありゃ、否定しないんですね」
「……否定したら好意を寄せてくれてる人に失礼でしょ」
「…何かありました?」
自然と仙ちゃんと小平太の顔が浮かんだ
「いいや何も」
「先パイ…嘘つくの下手ですね」
「…………。」
「そーんな深く考えなくてもいいと思いますけどねぇ?」
「え………」
思わず勘右衛門を凝視してしまう
彼女は俺を見てまた笑った
「先パイ達も思い悩んで欲しいわけじゃないでしょうし、ものは考えようですよ?自分愛されてるなーとかでいいじゃないですか。皆、ありのままの名前先パイが好きなんですから!世の中楽しんだ者勝ちですよー最後はどうせ成るようになるんですから」
あ、だからってセフレとかはやめて下さいねーとケラケラ笑う勘右衛門。なんで先パイ達って言えるんだ、とかちょっと楽観的過ぎじゃないかとかセフレってお前…とか色々言いたくて口はぱくぱく動くのだが、どれも言葉にはならなくて。なんかもうため息しか出なかった
「勘右衛門、お前は凄い奴だよ…」
「あははっ惚れちゃうくらいー?」
「おー惚れる惚れる」
言いながらぐりぐり勘右衛門の頭を撫でる。不思議な手触りに夢中になって撫でてると「全部の好意に気づいてるわけじゃなさそうー」とか言う呟きが聴こえた。疑問符を浮かべながら勘右衛門を見てもただニコニコして撫でられるまま
「要するに、」
久々知の声が教室内に響く
「三郎達は名字先輩が俺の旦那になるのが困るんだな?」
「だから旦那って…!話が飛び過ぎてるんだよ!」
「なんで私の名前を代表であげるんだ!!!」
何やらヒートアップしている。当事者なはずなんだけどな、俺。やはり何処か現実味がないというか…てか旦那って…何がいったいどうなってそんな。それに会話の端々にトーフトーフ聞こえる
「勘右衛門、彼女はそんなにトーフが好きなのか」
「大好きですよーそれこそ豆腐が関わると人が変わるくらいに!俺は豆腐と結婚するのだぁとか言ってたんで正直良かったですホントー」
三郎達と何やら話し込んでいる久々知を楽しそうに見ている勘右衛門。豆腐と結婚すると言っていた友人がどーいう形であれ、人間に目がいったのだ嬉しいよな。そーいうことならまぁ…いいのか?
「久々知」
「!」
俺に呼ばれてグリンとこちらを向き、無言で俺の隣の席に座った。俺の方を向いて座っているし、ポーカーフェイスでジッとこちらを見てくるし正直話しづらい。
それになんかやたら近い。
「えーっと、久々知」
「兵助と呼んで下さい」
「くく「兵助、と。」……く「お前、とかおい、でもいいですよ。嫁ですから」……兵助…」
「はい、名前先輩」
名前を呼んだらなんか頬を赤らめて見つめられる。この子の目に俺はどんな風に写っているのか激しく問いたい。
「いきなりその、嫁とか旦那っつーのはどうかと。俺ら初対面だし」
「先輩の作った麻婆豆腐を食べたら思ったんです。この人しかいない、と。豆腐が導いてくれたこれは運命です」
夕飯の残りがそんなに…?
「お友達からで!!ねっ!聞いたら勘右衛門達と仲良いみたいだし友達になろうっ俺も兵助のこともっとよく知りたいし!!」
言った直後、三郎から俺が座っている椅子を蹴られた。何故に?
兵助が俺の両手を包むように自分の両手と重ねる
「俺も…名前先輩のこともっとよく知りたいです。宜しくお願いします、その……色々と。」
顔を更に赤くさせ目をそらしながらもはっきりと言った兵助にまた周りは騒がしくなるのだった。
(色々ってなんだろうか………?)
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