「じゃあなるべく早く帰るけど今日は大人しくしているんだよ。寄り道も駄目だからね」

「解りましたって。早く行って下さい。遅刻しますよ」

「あ〜だる。ねぇ名前、やっぱりこのままドライブでも行かない?」

「行きませんよ。山本さん達待ってますからね」

「はぁ…名前はいい子だね。じゃあ、変な人に気をつけるんだよ」

「男子高校生なんて誰も襲いませんよ…」


学園の前に黒塗りの車と名前君がいる。暫くすると車は行ってしまって名前君だけが残った。彼は動かず、ずっと車が進んでいった方向を見ている。
その姿はなんだか今にも消えてしまいそうで


「名前君!!!」


僕は結構大きな声で呼びかけていた。名前君はいつもよりゆっくりとした動作で振り返る。


「わ、いさっくん!奇遇だね!おはようっ」


いつもと同じような様子の名前君。
でも顔色が悪い。


「おはよう、どこか具合悪いの?」

「んー少し寝不足なだけだよ!大丈夫!!」


ただの寝不足であんな風になるだろうか。こんな時、幼馴染みの仙蔵や留さんなら名前君の異変の理由がわかるのだろうか。
僕が幼馴染みだったら名前君は寝不足の理由(わけ)を教えてくれただろうか


「大丈夫じゃないよ!ちょっとふらついてるじゃない。鉢屋達には僕から言っておくからちょっと保健室で寝ていきなよ」


問答無用で名前君を保健室へ連れていく。後ろからは「わぁ〜いさっくんマジ天使ー流石大川学園のラファエルー」とかよくわからないことが聴こえた。


+++


ベッドに寝かせると名前君はすぐ眠り始めた……………僕の手を掴んだまま。こーいうことを無自覚でやってくるのは本当にどうかと思う。高1の時、他校生に絡まれていた僕を助けてくれた時だってそうだ。「怖かったすげー怖かった」なんて言っていたが僕は僕に絡んでいた人より名前君の乱入に驚いていた。実際に助けてくれた人なんて留さん達以外で初めてだったのだ。
眠っている名前君の前髪を触る。少し硬いような、でも柔らかくも感じる手触りだ。おでこを出すように前髪を横によせる。撫でて、輪郭をなぞるように顎にむかってまた優しく撫でる。頬を撫で目元を撫で唇に触る。


「………留さんは触れたことあるのかな」


親友の顔を思い浮かべる。
多分、ないだろうな
名前君の顔に自分の顔を寄せる。ドキドキして胸がキュッとした。そっとおでこにキスをする。


「………口にするのはフェアじゃないもんね」


それでも少し優越感があった。
自分の頬が熱い。繋がれたままの手をギュッと握る。


ずっとこの時間が続けばと思う反面、名前君が早く起きないかなとも思った。



(ふわぁ〜いさっくん有り難うーぐっすり眠れたよー)
(ううん僕も有り難う、ごめんね?)
(?)