最近小平太さんの機嫌がすこぶる悪い
気のせいかと思ったのだがどうもそうらしい。俺が留ちゃんに用事があったり、仙ちゃんに呼ばれたりして教室をあけたりする時、教室に戻ると小平太が寄ってきて「どこに行ってたんだ?」と聞かれるのだ。まぁこれはここ1ヶ月でよく交わすやりとりなんだが、最近は教室に戻ってくると質問もなくタックルしてくる。その後は小平太の気がすむまで絞めつけられるのだ。周りはひやかすばかりだし、小平太は何を聞いても絞め上げてくるだけだし、俺はどうしたらいいんだろうか。


昼休みになった。
購買に行くもの、食堂に行くものそれぞれだ。俺はだいたいいつも弁当持参だが、朝どうしても時間がない時は購買で済ませている。


「名前、今日は一緒に食べよう!」

「うん、いいけど小平太俺達いつも一緒にたべ―っ」

「いけいけどんどーん!!!」


手を掴まれたと思ったらもう、すぐに足が浮いていた。胃が上がる感覚が気持ち悪く、昼飯前で良かったとのんきに思った。



着いた先は体育館だった。日頃からバレー部で使用しているからか、あるいは小平太の性格故になのかは謎だが彼女には体育館がよく似合っていた。本人もどこかリラックスしているように見える。
よし、食べるか!と言って座る小平太の向かいに座ろうとして横に座った。短いスカートで胡座はどうかと思う。だが言う勇気はない。
自分の弁当箱を開けながら考える。どうやら彼女は二人で食べたかったらしい。それはここ最近の機嫌の悪さと関係しているのか。
横にいる小平太を見る。
購買のパンと思われるものが3個と牛乳(500ml)を前に広げて一個目のパンを食べ始めていた。


「小平太はいつもパンだよね」

「ん?あぁ!弁当はいつも朝練の後に食べてしまうんだ」

「バレー部ハードだもんね…」

「そうか?だがバレーは楽しいぞ!」


ニコニコして話す小平太。
今日は機嫌がいいのかな


「名前」

小平太が俺を見る。

「名前は私が好きか?」


真っ直ぐな目だった。
しかし、少し怯えているようにも見えて俺は何も言えなかった。本当は好きだよ、と言いたかったが小平太が求めているのはそーいう「好き」ではないだろう。言い淀んでいる俺を見て小平太は俺から視線を外した
どこかホッとしている自分を殴ってやりたい
ちゅー、と小平太が牛乳を飲む。目の前にある体育館のステージを見ているようで見てないようにも見える


「名前は基本的に休み時間はいないだろ。仙ちゃんや留三郎、鉢屋達の所だろうとわかってる。でも私は思うんだ、どうして隣に名前がいないんだろうって。仙ちゃん達と仲直り出来たのも良かったと思っている。でも面白くないと思っている私もいるわけだ。考えるのは苦手だ。でもはっきりしていることがある。名前、私は―」


もう一度、俺の方を見る小平太。
金縛りにあったかのように身体が動かせない。心臓だけがドキドキと動いていた


「私は名前が欲しい」

「…………言ってる意味わかってるの」

「私は本気だ。名前、」

「待って」


徐々に顔が赤くなってきているのがわかる。待ったをかけるが小平太は止まってくれない。横にいる俺の右手を掴み、自然と上目遣いに見つめてくるのが、可愛い。だんだん近づいてくる小平太にいけない気持ちが急激に膨れ上がってくる。
俺だって年頃なのだ正直、溜まるものは溜まるし、したくないかと聞かれたらしたいに決まってる。押しつけられた右手の感触に邪心は深まる一方だ。おっぱいはヤバい、やわらかい。


「小平太!」


咎めるような口調で名前を呼ぶと止まってくれた。しかし離れない。
仕方なく向き合うような体勢になりそっと小平太を引き寄せた。小平太はビックリしたのか俺の手を離し、両手を俺の胸におく。俺は両手で簡単に包みこめてしまうことに驚きちょっと戸惑った。当たり前だがやっぱり女の子なんだなぁと思う。


「小平太、やっぱりそれはお互いの気持ちが一緒じゃないと意味がないと思う。」

「…名前は私が嫌い、なのか」

学ランをギュッと掴まれる。

「好きだよ、大事な友達だ。だから大切にしたい」


小平太の真剣な気持ちに俺も真剣に答えなければ、と思った。少しでも大事だと伝わるようにギュッと抱きしめる。ふ、と思った。彼女からはよく抱き着かれるがそれにこたえて腕をまわしたことも自分から抱き締めたこともなかったな、と。


「名前は私が好きなんだな」

「勿論だよ。友達としてだけどね」

「なら、いい!」


小平太は俺の胸においていた両手を背中にまわして一度ギュッと力を入れるとンバッと下から俺の顔を見てニッコリ笑った。


「好きならまだ可能性がある!それに、私はやっぱり名前が欲しいからな、諦めない!!」


気持ちいいほど言いきったと同時に唇に覚えのある感触、しかし前より肉厚であり、荒々しい。啄むというより食べてるに近い。
――――って、おい。
ベリッと小平太をはがす。一瞬ムッとした顔をしたがすぐに笑った。


「大好きだぞ!名前!!」


ギュッと抱き着いてくる彼女の背中をポンポンとたたく。
結局俺は弁当を少ししか食べられなかった。


(温かな好意に甘えてる俺自身が憎たらしいです田中)