先日、甘い雰囲気など欠片もなく誘われたので気づかなかったのですがこれは世に言うデートなのでは…?
ということを家を出る前に叔父さんに指摘されて気付いた。やたらニヤニヤされてギュウギュウされた。
いやでも相手は仙ちゃんだしな…デートというよりむしろ女王様と下ぼ…認めてしまったらもう戻れない気がする。
あーでもないこーでもないと言いながら時間が過ぎる。一時間前に待ち合わせ場所に着いたので時間はまだある。…待たせるなんて後で何を要求されるか怖すぎるので念のため、だ。仙ちゃんが来る前にこれがデートなのか、そうじゃないのか自分の中ではっきりさせておかないと心構えとかモチベーションとか色々問題が出てくる。変に誤解してあとで落とされるのはダメージが大きいので避けたいのだ。
「名前、早いじゃないか。褒めてやる」
「仙ちゃんも…早いね」
時計を見れば待ち合わせ30分前。
予想外だ。少なくても一時間は待たされると思ってたよ。
瑠璃色の膝たけワンピースに白いカーディガンを上品に着ていて繊細な細工が施されたミュールを履いている。どこのお嬢様ですか。文句なしに、完璧に可愛い。
しかし、仙ちゃんが完璧だと余計視線を集めて一緒にいる俺がとても惨めだ。なんだあいつ…彼氏?フツーじゃね?趣味悪くね?という声が聴こえてくるようじゃないか!
「名前何か言うことはないのか?」
「あ、私服可愛いね。仙ちゃんによく似合ってるよ」
「…そうか」
花のように仙ちゃんが笑う。突き刺さる視線、涙目な俺。
「まずは映画だ、その後食事をとり買い物に行くぞ」
「わかった」
これは確実に荷物持ちだな、と一人頷く。
「ほら」
仙ちゃんの白く綺麗な手が差し出される。なんだろうか
「デートでは手を繋ぐものだろう?」
「…仙ちゃんと違ってデートなんてしたことないんでねーあははははー」
「私も、…本気のデートはお前が初めてだ。」
「………………。」
蠱惑的に笑う仙ちゃん。これはフツーの男だったらこの時点で彼女の虜だ。しかし何年か離れていたとはいえ俺は幼馴染み、いくらか耐性がある。別のことを考えていました。
これは気を抜いたら喰われるぞ
家を出る前の叔父さんの一言が蘇る
「女も時には狼になるんだぞ」
あの時はいい年して何言ってんだこのおっさん、と思ったがここ最近のことをよくよく思い出してみたら何も言えない。
とりあえず仙ちゃんの手をとり、最寄りの映画館へと行く。
「何か観たい映画でもあるの?」
「あぁ、洋画なんだが」
「字幕も吹き替えも大丈夫だよー仙ちゃんの好きな方にしんしゃい」
そうか、とだけ言った仙ちゃんは楽しそうだ。そんなに観たい映画だったんだろうか?
+++
「………。」
「……………おい」
「…………っ」
「………いい加減泣き止め」
映画館を出て近くの店に入った。
こじゃれた店内の一角で泣く俺。
映画は凄まじい内容だった。主人公の復讐がテーマのミュージカル映画で男は次々と人を殺していき復讐は成し遂げたが愛する人まで殺してしまい、最後に自分も殺された。
なんかよくわからない、でも悲しい
「せっ仙ちゃん、よくあの映画の後に食事にしようなんて思ったね」
あの映画は血の量も凄かった。
それに…
「ゔっ」
「おい、散々泣いて吐くなよ」
嫌そうな顔の仙ちゃん。そのあと一つため息をついた。
俺と仙ちゃんの前に並べられたランチプレート。新鮮な葉野菜にトマト、ターキーに自家製らしいソースがかかっている。美味しそうなんだが映画の後だと食べられる気がしない。仙ちゃんは食べてるけど。
「すまなかった」
「いいよ、仙ちゃん。映画自体は良作だと思―「まさかあんな終わり方をするとは思わなかった」
「……………。」
映画の最後、主人公を殺したのは……そしてその後彼は。
俯いてしまった彼女の頭を撫でる。なんだかんだで彼女は優しい。
例え俺が泣くのをわかっていてスプラッター系を選んだんだとしても。
「ちょっとビックリしたけど別に、平気だよ」
「……………。」
「だいたい俺と彼は違うし、俺には仙ちゃん達がいるしね」
叔父さんもいい人だし。
引っ込めようとした手を捕まれる
「うぉっ」
チュッ――
「こーいう時は私だけで十分だ」
「………………………。」
ちょっと甘いラズベリーソースの味。リップ音。
目の前まできた仙ちゃんの顔。
何が起きたのか理解した時には食後のコーヒーが運ばれていた。両手を組んでその上に額をつく。
手がやけに冷たく感じた
「なんなの…マジで…」
「映画の件はこれでチャラだ」
「それでキスって…仙ちゃんそーいうのよくないよ。」
「心配しなくても名前にだけだ」
「俺だけって…」
「なんだ、不満ならホテルでも行くか?」
「もう勘弁して下さい…」
「失礼な奴だな」
もう仙ちゃんが何考えてるのかわからん…
その後の買い物は予想通り荷物持ちだった。まぁ仙ちゃんは良い物しか買わないみたいで見る時間は長かったが買う物は少なかった。
今はチェーン店のコーヒーショップに入り仙ちゃんはコーヒーだけで、俺は昼が食えなかったのでコーヒーとサンドウィッチを食べている。……案外図太いよな俺。
「どうしてたんだ」
「ん?」
「中学だ」
「…別に、取り立てて言うことは何も。平和に、平凡に暮らしてたよ」
「随分と伊作を気にしてるようだが?」
「あれは…だって心配だろ?会うたびに絡まれてるとか。最近は変な人だって多いんだし」
「たまに図書室で長次と話し込んでいたな」
「なんで知って…なんとなく、本ばかりに囲まれて寂しそうだなって。俺のおせっかいだよ」
「空手部もよくのぞいてたな、留三郎は気づかなかったみたいだが」
「……大勢に混ざるの上手いから俺」
「私の所へもたまに来ていた」
「……………。」
「何故ちゃんと会いに来なかった」
「……ごめん」
「ふん、まぁお前のことだ。理由はだいたい想像がつく。」
「………うん」
仙ちゃんは目を一度左右に動かし俺を見た後、俯いた。
「……これからはちゃんと相手をしろ」
少し恥ずかしそうに、ちょっと悔しげに言う仙ちゃん。
俺は爆発した
「仙ちゃん超絶カッワイーーー!!!!!!」
「うるさい黙れ!もう帰るっ」
「え、待って!送るよ!!」
「当たり前だ!」
ニヤニヤしてたらミュールで脚を蹴られました
(幼馴染みっていいな)