死にたがり君と毒虫野郎



伊賀崎孫兵は苛立っていた。
それは、先ほど食堂で会った三年ろ組富松作兵衛と、ある人物が大きく関わっている。

伊賀崎と同じい組で同室の名字名前は一見大人しそうな少年だ。座学はい組の中でもトップクラスだし実技も暗器を好んで使い、何をやらせても優秀。ここまで聞くと将来有望な忍者のたまご間違いなしなのだが大きな問題があった。
死にたがりの上、話が通じないのだ。
昔、忍術学園に入りたての頃に伊賀崎は名字に何故忍者になりたいのか聞いたことがある。名字はなかなか良い家柄の武家の長男でもあった。彼は、伊賀崎の問いに「武士より早く死ねそうだから」と答えた。その時はとんだ理由に憤慨したが今は何故そんなに彼が死に急いでいるのかが気になっている。何故早く死にたいのか、と聞けば名前は首を傾げるばかりで明確な理由を言わないのだ。
イライラする。

食堂で会った作兵衛には世話焼きな彼らしく名前について説教を受けた。お前が同室なんだから何とかしろ、と。
聞けば、いつもの様に迷子捜索をしていたら名前も手伝ってくれたそうだ。無事作兵衛が三之助を捕獲した時、ボロボロな名前と左門が手を繋いで戻ってきた。左門の話では山で山賊に襲われたんだとか。逃げればいいのに交戦した。何故なんだと問えば「いや、イケるかなっと思って。」と返したと。
作兵衛は名前の返しを忍者の三病の一つ、相手を侮ったのだととったみたいだが名前の場合、正しくは「いや、逝けるかなっと思って。」だ。
あぁ、イライラする。


「やぁ孫兵」


部屋に戻ると名前がいた。
彼の首にはジュンコがいた。気持ち良さそうに名前に撫でられている。


「お前のせいで作兵衛に説教されたぞ」
「それは災難だったねぇ」
「名前、どうしてそう死に急ぐんだ」


名前は撫でる手を止めて、漸く僕を見た。


「どんな気分なのかな?」
「何がだ」
「最近知ったんだが孫兵、君がいつも持っている火薬は毒への応急措置で身体に回らないようにするための物だとか」
「そうだが」
「もしもの時は手足をふっ飛ばせるくらいの愛情だが毒は明かに愛の障害で、しかし孫兵は毒を持つ生物が好きだ」
「……」
「毒は障害であると同時に愛の象徴?そしたら、」
「……おい」
「愛で死ねるのならそれはどんな気分なんだろうね」


名前はジュンコを僕の肩へと乗せた。
定位置にいつものひんやりとしたぬくもりを感じる。自然と笑みが溢れた。
不意に名前が僕の頬をするりと撫でる。


「孫兵が毒を持ってたら咬んでもらうのにね」
「…誰がお前なんかに咬みついてやるものか」


毒を持たない僕らはどうやって愛を伝えようか



+++
結局理由を言わないという



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