掃いて捨てる恋心



※くのたま主設定
※悲恋



「名前?どうかしたの?大丈夫…?」

「っ……大丈夫、どうもしないわ」


声が震えないよう努めて心配そうにこちらを伺う同室の友人に答える。
思わず…というよりも、もっと感情的に家から着た手紙をくしゃりと握りしめてしまった。優しく皺を伸ばす手つきと反して私の心中は全く穏やかではない。

動揺するほどのことでもない。いつもの様に自分に縁談がきただけだ。ただちょっと、今回は断れそうもないというだけ。断り続けていたらこんな事態がいつかはくると分かっていたはずじゃないか。


(留三郎……)


一番に浮かんだのは彼奴の顔だった。
別に、奴と恋仲というわけではない。器用貧乏なヤツをなんだか放っておけなくて色々軽く手助けして、そのお礼に菓子だの櫛だの貰う関係…それだけだ。
本当にそれだけの関係なのに何故かヤツの姿がチラついて苛つく。
目頭が熱くなった。鼻がツンとした。唇を噛みしめる。喉の奥で声にならない呻きをあげた。





「留三郎」

「よぉ名前!今日はえらく着飾ってんなー外出か?」

「あぁ、縁談が決まったからな。軽く相手方と顔合わせに行ってくる」

「縁談…なんだ、今回は蹴らないのか。いつもはすげなく破談に持ち込むのによ」

「断れない所からだ。家柄も良く、悪い噂もない。相手が私に一目惚れしたらしくてな、熱烈な文も頂いた。」

「そりゃ結構なことだな、滅多にない良い縁談だ」

「あぁ、私は幸せになるのだろう」

「………………。」

「………………。」

「お前のことが好きだった」

「!」

「この縁談がきて気付いたんだ、馬鹿みたいだろう?」

「………名前、」

「何も言うな」


強く留三郎を睨みつける。
そうしなければ膝から崩れ落ちて泣いてしまいそうだった。
すがりたくない。どうせ、奴とは一緒になれない。忍びになるということを捨てさせたくない。


あぁ、なんて面倒な相手を好きになってしまったのだろうか


留三郎は何か言おうと口を開いたが、何かを言う前にその口は閉じられ、苦虫を噛み潰したかのような顔をした。
それから瞳を一度閉じ、次に開いた時には先程の表情なんて嘘だったかのように微笑んだ。


「おめでとう。幸せになれよ」

「あぁ、なるさ。…なってやるとも」


そして、私達は笑顔で別れを告げた。
勿論私は幸せになった。



***
留さんモテるんだろうな
大変だろうなぁって思ってたらなんだこの後味の悪さ



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