フルスマイル!



放課後の校舎とは不思議なものでどこか浮世離れしたところがあると思う。
朝昼と騒がしかった校内はシンとして、遠くの方でたまに甲高い女子達の笑い声がする。勿論外のグラウンドからは汗水流して青春している人達の声が絶えず聞こえるのだが放課後の夕日で赤みがかった教室はそこだけ現実から切り離されたかのような錯覚を受けるのだ。
だから好き


「マリー!何処行ったーー!!?」

「……………。」


校舎の窓から外を見ると今日も飽きずに飼育している虫や動物達を探す隣のクラスの竹谷八左ヱ門がいた。
毎日の日課になりつつある放課後の哲学に浸る時間を毎度こいつの声でぶち壊しにされていたりする。
脱走した虫やら動物探しって…ある意味非現実的というかあり得ないことだが彼からしたら日常茶飯事だ。だいたい私が求めているものとはかけ離れている。地べたを這いずるように虫を捜す竹谷は教室の窓から見ている分にはなかなか滑稽で面白いが。


「…………よくやるわ…」


ここから見てもわかるくらい真剣な顔で捜す竹谷はこの一言に尽きる。
何が彼をあそこまでさせているのか私には理解出来ん


「あ、」


なんだかんだでガン見してたのかいきなりガバッと竹谷が顔を上げこっちを見てきた。
ヤバい、完全に目があっている


「………………え、」


何か言われるかと構えていると、竹谷はフルスマイルで大きく手を振ってきた。思わずしゃがみこみ、窓から此方が見えないようにする。
何故だ。あいつとは全く面識がない。私が一方的に竹谷を知っているだけ…誰かと間違えている?いや、あいつ見るからに視力良さそうだしな
恐る恐る少しだけ窓から顔を出すと竹谷がまだ此方を見ていた。相変わらずのフルスマイルで手をブンブン振っている。よく見ると頬が紅潮していた


「……あいつ、もしかしてなんか勘違いしてないか?」


客観的に今の状況を考えてみる。毎日飽きもせず窓から一人の異性を見ている女子。まぁ勘違いしていても可笑しくない
え、どうしよう


「………はは」


とりあえず笑顔で手を振り返してみた
顔が引きつり気味なのは仕方ない

翌日、あのフルスマイルで声をかけられることは想像に容易い


(なぁなぁ名字さんだろ?)
(…あ、た 竹谷…君)
(名前でいいぜ!それよりさ、その…暇なら今度…)
(えー…)

***
厨二くさい?…というより爺くさい女主と勘違い竹谷
竹谷ってフツメンなのにタケメンなのが凄いと思うんだ



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