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終焉の涙
「ねぇ、キド」
「なんだ」
「…全部、終わりにしよっか」
「は?」
「もうやめよう。メカクシ団も、僕たちの関係も、全部」
「は…お前、何言って、」
「別に冗談とかじゃないよ、本気」
「っ、やめられるわけがないだろう!俺は団長なんだ、団員を…あいつらを、守ってやる義務がある!」
あぁ、そう言うと思ったよ。
キドは、真面目で正義感の強い女性(ヒト)だからね。
でも、そうやって気丈に振舞う裏側で、キドが泣いてること、僕は知ってるよ。
「世間知らずで引きこもりなマリーはどうなる、また一人ぼっちにするのか?ヒビヤはきっとヒヨリが見つかるまで帰らないぞ。俺やお前だって…ガキ一人でできることなんてたかが知れてるだろ…俺たちが、一番よくわかってるだろ…」
ソファから立ち上がって捲くし立てたキドだけど、言ってる間に冷静になったのか、もう1度深く座り直した。
わかってたよ。
わかってたけど、そんな表情(カオ)しないでよ。
僕だって、
「キドの言ってることは間違ってないよ」
「…なら、どうして」
「それでも、終わりにしよう。少なくとも、僕はもう終わりにするよ」
「おいカノ、どういう、」
「僕はもうここには居られない。ほんとなら、全部なかったことにしたかったけど、まぁキドは頑固だしね」
ローテーブルを挟んで向かい合って座っていた僕ら。
いつものように肩をすくめて笑って見せた僕に、キドは勢いよく詰め寄った。
テーブルに手をついて乗り出し、僕の胸倉をいつものように遠慮なく掴み上げる。
顔が近付く。
吐息がかかる。
「なかったこと…?今まであったこと全てを、なかったことにするつもりなのか…」
「…そうだね」
「メカクシ団のことも、あいつらのことも、お姉ちゃんのことも、」
「全部だよ」
「…俺の、ことも……」
「…全部、忘れてしまおうよ」
僕を掴むキドの手が震えている。
顔は伏せたまま、手入れの行き届いた僕の大好きな長い髪に隠されていて、見えない。
泣いてるのかな。
キド、昔から泣き虫だったもんね。
ほんとだったら、今すぐ抱きしめて慰めてあげたいのに。
ほんとは泣かせたくなんかないのに。
やっぱり、僕は嘘つきだね。
さぁ、もう時間だ。
「キド、悪いけど僕、本気だから」
言いながら、キドの手に触れてゆっくりと僕から引き剥がす。
キドはまだ顔を上げない。
肩を優しく押しながら、ゆっくりとソファに座らせた。
「…僕、行くね。ごめんね、キド」
いつもの欺いた笑顔で別れを告げた。
瞬間、勢いよく顔を上げたキドは、涙でぐちゃぐちゃだった。
胸が痛む。
ごめんねキド。
泣かせてごめん。
嘘をついてごめん。
一人にしてごめん。
心の中で何度も謝りながら、キドの額に触れるだけのキスをした。
小さなリップ音を響かせて唇を離し、キドの顔を見ずに僕は背を向けた。
「っ、カノ!待て、カノ!カノっ!」
キドが僕を呼んでる。
そんなに大きい声出すと、みんなが起きてきちゃうんじゃない?
しっかりしてよ、団長さん。
…ありがとうキド。
僕の名を呼んでくれて。
玄関をくぐり、憎らしいほど明るい月に照らされながら足早にアジトを離れる。
大丈夫。
今、キドの周りには、キドを支えてくれる人がたくさんいる。
だから大丈夫。
大好きなキドやみんなを守るために、僕が一人ぼっちになるなんて、そんなの安いもんだ。
僕一人がワルモノにさえなれば、みんな幸せでいられるんだから。
大丈夫。
こういうのは、怪物の僕の役目だから。
僕は大丈夫だから。
「あれ…なんで僕、泣いてるんだろ…」
欺ききれない涙を拭いながら、僕は一人、夜の闇に溶けていった。
終焉の涙
(願っていた終わり)
(こんなはずじゃなかった)
※全て捏造です。原作の流れ等とは全く関係ありません。
イメージとしてはカノが何者かに脅され、メカクシ団を守る為にキドの元を去ったという感じです。
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