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苦労人の考察

いつのことだか忘れたが誰かが言った。
『喧嘩するほど仲がいい、を体現する奴ら初めて見た』
俺もだ。

「何でわかんないんだよ、バカ清志!」
「わかるわけねーだろうが!」
「私が間違ってるとでも言うわけ!?」
「それ以外に何があるっつーんだ!いい加減轢くぞ!」
「轢きたきゃ轢けよ!どーせやれないくせに!」
「っんだと!」
「事実でしょーがヘタレ清志!」
「はっ、本怖ですら震えてた奴がよく言うな」
「は、はぁ!?べ、別に震えてなんかないし!変なこと言うな!」
「事実だろーが」
「震えてないって言ってんでしょ!」

パイナップルに轢かれてろバカ清志!そう捨て台詞を吐いた美緒は勢いよく教室を出て行った。
残された口喧嘩の相手である宮地と、傍観者という名のクラスメイト達は同時に深いため息をついた。もちろん意味合いは全くもって違うのだが。
宮地は眉間に皺を寄せたまま俺の前の席へと腰かける。
そしてまたも深いため息を一つ。

「今日は何で痴話喧嘩してたんだよ」
「…高尾のカチューシャスタイルが可愛いんだとよ」
「そんなくだらねーことだったのか」

俺が苦笑をもらしたのは言うまでもない。
多分、今日の部活は高尾にだけ当たりがキツいだろうな。
宮地は俺から顔を背けて頬杖をつきながら不平を溢す。
まぁ彼氏の目の前で他の男の話をされるのが嫌なのはわかる。よくわかる。
だけどコイツは素直じゃねぇから、嫉妬したって美緒がキレるような言い方しかできねぇんだろ。
それでさっきの犬も喰わない口喧嘩に発展したわけか。
全体像が掴めたら、今度は俺がため息をついた。

「さっさと謝ってこいよ、ただの嫉妬だろ?」
「…うるせぇ」
「どーせ大坪んとこにいるだろ」
「だから何で男のとこ行くんだよあのバカ」
「いいから早く行ってこい。美緒も謝る気だよ」
「……ちっ」

俺の言葉に渋々ながらも腰をあげた宮地を見送り、俺は安堵の息を洩らしながら弁当に手をつけた。
アイツはなんだかんだで美緒にベタ惚れだ。
美緒も美緒で宮地のことが大好きで。
じゃあ何で喧嘩してんのかって?
どっちもバカみてぇに素直じゃねーからだよ。
素直になれるのなんか、こうして口喧嘩した後の仲直りくらいだ。
常日頃からお互い素直になれっつーの、特に宮地。

うちのクラスの昼休みは、こうしてとあるバカップルの喧嘩で始まるのだ。



苦労人の考察
(部活の時には嘘みたいにいちゃいちゃしてる)
(これが日常だ)


苦労人=木村、だったりします。

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