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沈む思考と無意識殺人

大好きです。
あなたのことが大好きなんです。
ただ、貴方の一番近くにいたいだけなんです。


どうしたら、私を見てくれますか?



***




ガチャ

「!、お疲れ様です、スクアーロ隊長!」

一般隊士の使う会議室の扉を開け、入ってきたのはスクアーロ隊長。
もちろんこの部屋にいるのは私を含め、全員スクアーロ隊の隊士だ。
次回の任務の説明をするとのことで、何名かの隊士が集められていた。

「お゛う、全員揃ってんのかぁ?」

スクアーロ隊長の言葉が私に向けられているものだということは、彼が私を見ずに言ったとしても私にはわかる。
私は彼を見つめて答える。

「ヒナを除いて全員集まっています。彼女には先程から連絡がつかず…」
「あ゛ぁ、アイツはいい。野暮用頼んであるからなぁ」
「左様ですか、ならば全員います」
「よし、じゃあ説明をする。よく聞いとけよぉ、死んでも知らねぇからな」

そう言ってスクアーロ隊長は私達に任務の説明をしてくださった。
役割やら当日の動きやら、私はたったの一語すら漏らすことなく聞いていた。

「…まぁこんなとこだな、しくじるんじゃねぇぞ」
「「はいっ!」」
「それじゃあ解散だぁ」

隊長の声で隊士たちはガタガタと席を立ち、会議室を出る。
私も仲間と共に出ようとしたら、

「ルイ」
「はい、何でしょう?」

スクアーロ隊長に呼び止められ、振り返った。

「隊士どもに渡そうと思ってた書類を部屋に忘れてなぁ。お前、後で取りに来てくれぇ」
「はい、わかりました。隊長の任務が終わった頃にお部屋に伺いますね」
「お゛う、悪ぃなぁ」
「いえ、では失礼いたします」

綻びそうになる口元を必死で堪え、会議室を出た。


スクアーロ隊の統率を任されている私。
したがって、スクアーロ隊長と一緒にいる時間も必然と他の隊士よりも長くなる。
さっきの頼みごとのように、スクアーロ隊長の元を訪ねることだって多々ある。
秘書をとらない隊長にとって、きっと私はここの隊士の中で、一番スクアーロ隊長に近い存在になる。
自惚れかもしれないとは思うけど、大好きなスクアーロ隊長の一番近い存在…。

「ふふっ、幸せだなぁー」

こんな仕事をしていても、幸せを感じられたんだ。


―この時までは。




***




スクアーロ隊長に説明を受けた任務の日。
私は銃の準備に手間取り、他の隊士よりも遅れて部屋を出た。
廊下を走り、屋敷の玄関へ向かっていると、愛しい隊長の後姿が見えてきた。
隊長、見送りに来てくれたんだ…!
嬉しくて、一気に走るスピードを上げ、隊長の背中に声をかけようとした。
…その時だった。

「スクアー、「ヘマすんじゃねぇぞぉ、ヒナ」

私の声を掻き消すように聞えた隊長の声。
私は足を止め、目の前に広がる光景をただ呆然と見つめていた。
…スクアーロ隊長、何でヒナとキス…してるの…?
ヒナ、何でスクアーロ隊長の首に腕、回してるの…?
私は…私は、スクアーロ隊長にとって、一番の存在じゃなかったの…?


呆然とする私のすぐ横にあった部屋の扉が突然開き、中からヒョコッと顔を出したのはベル隊長。
なのに私は、幹部であるベル隊長に挨拶もせず、ただ2人のキスシーンを見つめていた。

「あり?お前ルイだっけ、スクアーロんとこの」

声をかけられ、ぎこちなく笑みを浮かべながら、そうですと呟く。
普段なら、幹部の方に声をかけていただけて、尚且つ名前を知っていてもらえるだなんて光栄すぎて涙を流していただろう。
だけど、今だけは声なんてかけてほしくなかった。
だって、ほら。
そのベル隊長の声に気付いたスクアーロ隊長が、ヒナから唇を離し、パッと振り向いた。

「お゛ぉ、ルイじゃねぇかぁ!今日はよろしく頼むぜぇ!」

スクアーロ隊長は口角をあげながら私へと歩み寄り、私の頭を少し乱暴に撫でた。
その間に、ヒナは恥ずかしそうにしながら玄関から外へ出た。

「あ…はい…」

引き攣ったように笑いながら返事を返したことに、スクアーロ隊長は眉をしかめた。
ベル隊長も不思議そうに口をへの字にしていた。

「なんだお前、体調でも「し、失礼しますっ!」
「なっ、う゛おぉい!ルイ!」

スクアーロ隊長の声を遮って早口で言い切ると、走って玄関を抜けた。
後ろでスクアーロ隊長とベル隊長の私を呼ぶ声がしたけど、振り返ることはしなかった。
やめて。
そんな優しさいらない。
何で?
どうしてなの?用意されていた車に飛び乗り、思わず涙を流す。
他の隊士たちが私を驚いたように見ていたけど、そんなの知らない。
今はそんなこと気にすることはできない。
心が苦しくて、苦しくて…涙が止まらなかった。




***




現場に着く頃には涙は引いていたものの、目は赤いままだった。
たとえどんな状況であろうと、任務に失敗は許されない。
そう自分に言い聞かせながら隊士に指示を出していく。
各自持ち場についたことを確認して、合図を送る。
そこからはもう、ただの大量虐殺と変わらない。
あちこちで断末魔、銃声、爆発音があがる。
私は愛用の剣で敵を切り刻む。
この剣も、スクアーロ隊長に憧れて始めたんだっけ。
よく稽古つけてもらってたなぁ。


…たくさん殺せば、隊長は私を褒めてくれるかな?


一瞬、反応が遅れて腕を斬られた。
怪我をした。


…隊長、私のこと心配してくれるかな?


顔を上げたら、目の前には銃口。


…私が死んだら、スクアーロ隊長は悲しんでくれるかな?
泣いてくれるかな?


「スクアーロ隊長…」バンッ!



***




ザザッ

≪スクアーロ隊長、任務終了しました≫

手にしていた無線機から隊士の声が聞えた。

「大分手こずったみてぇだなぁ、タイムオーバーだ」
≪申し
訳ありません、今から戻ります≫
「お゛う」

返事をしてから気付いた。
いつもこういう時、俺への連絡はルイがしていたはずだ。
何故ルイじゃない。
ここを出るときも妙に様子がおかしかったが…

「おい、ルイはどうしたぁ」
≪あ、それは…≫

口ごもって話そうとしないその態度にイラつきを覚える。
やっぱりこういうのはルイじゃねぇとダメだなぁ。
なんて思いながら隊士に先を急かす。
そうすれば、少しの間を空けて喋りだした。

≪…任務は成功しましたが、2名の隊士が任務中に命を落としました≫
「2名…誰だ?」
≪ルイさんと、ヒナです≫


ガシャン


≪隊長?…どうされたんですか?隊長?≫

俺はその名前を聞いた瞬間、持っていた無線機を落とした。
信じたくなかった。何でだ?
アイツは強いはずだ。
なのに、何で何だよ。
俺の一番の存在だったんだ。
何で…


「っ、ヒナっ……!」



―私が死んだら、悲しんでくれますか?スクアーロ隊長…




沈む思考と無意識殺人

(どう足掻いてたって)
(私は一番になれなかったってこと)





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