(7/10)
あの日見た群青


ありふれた日常。
何の変哲もなく過ぎ行く日々。
その日だってそれは同じで、ただ一つ違ったのは、窓から見た青空がすごくキレイだったこと。


窓側の列一番後ろが私の席。
トイレに行くときや移動教室のとき以外は、ずっとここに座っている。
元々人と関わることが好きではなく、苦手といってもいい。
休み時間に一人でいることを寂しいと思ったことはないし、むしろ一人でいる方がずっと楽だった。
だけど、昼休みになると、必ずといっていいほどやってくる男がいる。
私が机に頬杖をついて空を見上げていれば、机の上に腰をおろして同じように空を見上げる。
私は元来無口な方だから何か言ったりすることはないが、彼もまた何も言わない。
何を言うでもなく、ただ長い休み時間一緒にいるだけ。


それが同じクラスの高尾和成だ。
今日も例外ではなく、彼は昼ごはんを食べ終わったあとに私の元へやってきた。

「美緒ちゃん、椅子半分貸ーして」
「…はい」

座っていた椅子から少しズレて、彼が座れるスペースをつくる。
そうしてやれば、彼は屈託のない笑みでありがとうと漏らした。
私は背中合わせで座る彼の背中に、自分を預ける。
人と関わることが苦手なのに、何故か高尾だけは平気だ。
平気というより、むしろ隣にいてくれることが心地よい気がしてならない。
何故だかはわからないけれど、今もこうして背中で体温を感じられることに安心する。

「美緒ちゃーん」
「んー?」
「俺が何でここいるかとか、聞かないの?」
「…あんま気になんない」
「そっか」
「私と一緒にいて、楽しい?」
「楽しくなきゃわざわざ来ないっしょ」
「そっか」

何でだろう。
顔は見えないのに、彼がへらりと笑っているのが容易に想像できる。
その表情を思い浮かべて、自分の胸がぽかぽかと暖かさを感じるような気がした。

「美緒ちゃんこそ、俺がいて楽しい?」
「楽しい、っていうか、安心する」
「安心?」
「なんか、ホッとするの」

そう言った後で、私たちの関係性って何だろうかとふと気になった。
ほとんど会話もしないけど毎日昼休みは一緒にいる。
最近じゃ、移動教室のときなんかは一緒に行こうと誘ってくれる。
顔見知りってほど浅い関係じゃないし、友達…って呼べるのかな。
でも、なんとなく友達とは違うような感じがする。
幼い頃からこんな性格ではあったけれど、それなりに友達はできたりもしていた。
そのときのことを思い出すと、友達に抱く気持ちと高尾に抱く気持ちは少し違う気がする。
じゃあ、友達じゃなきゃなんなんだろう。

「なぁ、美緒ちゃん」
「なに?」
「…俺ら、付き合っちゃおっか」
「……そうだね」

高尾の言葉がすとん、と胸に落ちてきた。
あぁ、私が高尾に抱いていた気持ちは、これだったんだ。
そばにいることが心地よかったのは、ホッとしたのは、安心していたのは。


私が高尾を好きだったからだ。


「…たかお、」
「んー?」
「あたし、高尾が好きだよ」
「…ん、俺も好き」

お互い背中を合わせたまま、顔を見ることもなく想い告げあう。
教室に響いている喧騒が、私たちの言葉を隠してくれる。
周りの人間には聞えていないけど、私には、高尾には、はっきり聞えた想い。


空を見上げれば、相も変わらず雲一つない青空が広がっていた。





あの日見た群青

(きっとずっと、忘れない)








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