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後ろ髪に憧れて

その人と初めて会ったのは、とある放課後のことだった。



いつものように部活を終えて、疲れきった身体をひきずるようにして、校門へ向って歩いていた。
途中、突然後ろから来た誰かが俺にぶつかった。
正しくはその人の鞄なんだけど。
それはその人が俺を追い越した瞬間のことで、突如視界に入り込んだ艶やかな黒髪が印象的だった。
ぱっと振り返った彼女と、目が合った。

「ごめんなさい!大丈夫ですか?」
「え、あ、はいっス!」
「本当?なら、よかった」

ふわりと笑った彼女は、急いでいるからと言って歩き去って行った。
俺の金髪と正反対の真っ黒の綺麗な髪が、風に靡いていた。
俺はしばらくその場から動けずにいて、後から来たセンパイに蹴られて、やっと歩き出した。


(綺麗だったなぁ)
(何がだよ、気持ち悪いな)
(センパイ!綺麗な黒髪の人知らないっスか!?)
(お前以外みんな黒髪だよ!)




***



次に会ったのは昼休みのことだった。


これまたいつものように購買でパンを買って、教室に戻る途中だった。
廊下を歩いていれば、少し前を長い黒髪が揺れているのが見えた。
その後ろ姿であの人だと確信した俺は、歩幅を少し広げて、彼女に近寄った。
声をかけようとした瞬間、彼女の手からいくつかの本がバサバサと音を立てて落下した。
俺は反射的にしゃがみ込み、それらを拾い立ち上がった。

「はいっス」
「え?あ、ありがとう…」

彼女は驚いたように目を丸くしながら本を受け取った。
だけど、その両腕には既に抱えきれないほどの本があり、俺は思わず苦笑した。

「その本、持つっスよ。どこに持って行けばいいんスか?」
「え、いいよ。初めて会ったのにそんなことしてもらうなんて悪いし」
「初めてじゃないからいいっスよね?」
「え?どういう…って、あ…!」

彼女の返事を待たずに腕から本を奪い去り、代わりに俺が持っていたパンを彼女に持ってもらう。
本と一緒に持ったら潰れそうっスから。
もう1度どこへ持って行くのか聞けば、図書室だと答えてくれた。


「私、あなたとどこかで会ったっけ?」
「あれ、覚えてないっスか?つーか、俺のことは知らないっスか?」
「うん…一度見たら忘れなさそうな髪なのに…」
「髪だけっスか!?…まぁ、そうっスけど」

少し前に校門で会ったことを教えれば、彼女はそのことを思い出したようで、「あぁ!」と声をあげた。
納得するように大きく頷いた彼女に呼応して、下ろしたままの長い髪も揺れる。

「あの時ぶつかっちゃったのは君だったんだ!」
「はいっス!まぁ、覚えてなくて当然っスけど」
「ごめんね、ちょっとよそ見してて…」
「別になんともないし、平気っスよ」
「それならよかった」
「それ、あの時も言ってたっス」
「あはは、そうだっけ?」

2人で笑いながら並んで廊下を歩く。
隣を歩く彼女の横顔を見て、柄にもなく心臓が跳ねた。
本を抱えていない方の手で、気付かれないようにそっと彼女の髪を掬った。
さらさらと俺の手から落ちていく髪を見て、やっぱり綺麗だなと思った。
この長い黒髪も、持ち主であるこの人も。


きっと、この気持ちは―



後ろ髪に憧れて


(運んでくれてありがとう)
(どういたしましてっス)
(何かお礼とか…)
(あ!じゃあ、名前教えてくださいっス!)


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